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#2-2.トイレでピンチ!

【まじらぼ 前回までは】

酒場の主ヨナが殺された。魔捜研にとってはじめての殺人事件の捜査がはじまった──



     1



 ラボを出たオレとのじゃ子さんは、事件現場近くの詰め所へと向かった。


「この国の治安維持は騎士団が担っている」


 のじゃ子さんから説明を受けながら、表通り──ホレイショー通りに出る。


 別名、職人通りとも呼ばれるホレイショー通り。


 左右に靴や服、アクセサリーを作る工房が並んでいる。そこに武器や鎧、魔法具を作る店が混じっているあたりファンタジー世界だな、と思う。


「組織は騎士団長を頂点に、各管区の責任者である騎士長、その下に騎士、衛士そして護民兵がおる」


 のじゃ子さんの説明を聞いたオレは、頭の中で、騎士団組織を日本の警察に当てはめてみた。


 騎士団長:警視総監。


 騎士長:所轄の警察署長。


 騎士:警部、警部補などの刑事たちのリーダー。


 衛士:刑事。


 護民兵:ヒラの警官。


 だいたいこんな感じだろうか。


 オレたちの世界と違うところは、騎士と衛士は貴族/準貴族で、護民兵は平民という身分差があること。

 あと護民兵の給料は、国じゃなく担当する地区や街から出ているという。手当てのある自警団って感じだ。

 当てはめてみたけど、結構違うな。


 通りを抜け、船着き場で小舟に乗る。


 魔捜研のラボがある〈都〉の中央区は、二重の運河とそこから別れた水路が無数にあって、タクシーやバスのような小舟が行き来している。


 オレとのじゃ子さんが乗ったのは3、4人乗りの一番小さな船だった。

 料金は日本円にすると数千円くらいするので、はじめに現場行った時はもったいなくて使わなかったのだ。


「どうした?」

「こういう舟って慣れなくて」


 このボートに乗るのは二度目。サミちゃんの不正疑惑を晴らしに錬金術アカデミーに行く際に乗って以来だ。

 あの時は、サミちゃんのことが気がかりで他のことを気にする余裕がなかった。


 小さくて細いボートだ。こわいわけじゃないけど、ちょっと躊躇ってしまう。


「あんちゃん、上京したてかい?」


 船頭のおじさんが笑って言う。


 むう…田舎者だと笑われた気分。


 のじゃ子さんが舳先(へさき)のほう、オレがまん中の当たりに乗ると、小舟は静かに進み始めた。


 んん?


 船が動き出してオールを漕ぐ音がしないことに気づいた。


 振り向くと、船頭はオールに手をかけているだけで漕いでいない。でも、小舟は現在進行形で加速している。


「この船、魔法で動いているんですか?」


 思わず、声を上げてしまった。


「船底に水流を作る魔法がしかけてあるのじゃ」


 オレの方を振り向いてのじゃ子さんが説明する。


「船頭が(オール)に魔力を注ぐと起動する仕組みじゃ。オールは起動スイッチであり、動き出してからは舵となる」


 この船は、魔法のモーターボートってわけか。


「あんちゃんの田舎じゃ、まだ手漕ぎ使ってるのかい」


 のじゃ子さんの説明に続いて、船頭が驚いたように言った。


「船頭さんって、そういう専門の魔法使いなんですか?」

「まさか! オレはフツーの船頭だよ」


 一般人が魔法の乗り物を動かせる。魔法の機械が普通に身の回りにある。

 ここはまさに魔法文明の世界なんだな。


「そうだ、試しにあんちゃんも漕いでみるか?」

「いいの?」

「舵取りには経験が要るが、動かすだけなら簡単だぜ」


 小舟が水路の端に寄り、停止した。

 船頭と場所を替わり、オレはオールに手を掛けた。ちょっとワクワクする。 


「ようし…動け~!」


 声に出して、船よ動け、前進しろと念ずる。


 しかし、船は動かなかった。


「動け~! 動け~! 動けよぉ~!」


 一心不乱に念ずる。しかし船はまったく動かない。横にゆれるだけだ。

 頭の上を、半透明のメールバードたちが飛んで行く。


「大丈夫か? 病気じゃねぇのか?」

「こやつはマロウド──別の世界から来た者ゆえ、魔力が低いのじゃろう」


 心配する船頭にのじゃ子さんが言う。


「しかしここまで低いとはな」


 ガックリ来たオレを、のじゃ子さんがかわいそうなものを見る目で見た。 



     2



 殺人現場のあるダンカン通りで船を下りたオレとのじゃ子さんは、現場近くの衛士詰め所へと向かった。


「あれが詰め所じゃ」


 のじゃ子さんが通りのカドにある二階建ての建物を指差した。


「なんか普通の建物ですね」


 交番のような施設だと思っていたけど、周りの建物と違いがない。

 そういう施設だと示すロゴとかマークとかがないせいだろう。


 木のドアを開けて中に入ると受付カウンターがあった。


 小さなのじゃ子さんが、呼び鈴を鳴らそうとして「うーん」と手を伸ばす。かわいくてちょっと笑ってしまう。


 のじゃ子さんが呼び鈴を鳴らしすと、


「へーい」


 という太い声がして、奥から背の低いじいさんとばあさんが出て来た。


 ドワーフだ。

 ファンタジーのファの字も知らないオレでも、なんとなく知っている。

 この世界でもドワーフは、背が低く、いかつい身体をしていて工芸に秀でた種族だという。


「護民兵に話を聞きたいのじゃが」


 のじゃ子さんが魔捜研の身分証を取り出して言う。オレもあわてて取り出して見せた。

 魔捜研の身分証は見た目、日本の警察手帳に似ている。革製で、開いて金属製のバッジを見せるとこも同じだ。


 ドワーフ二人は目を細めてオレたちの身分証を見ると、


「今はみんな出払ってます」

「巡回ついでの昼メシです」


 無愛想に言った。


「そういえばそんな時間じゃな。出直すとするか」


 のじゃ子さんに促され、オレは外に出た。


「さっきの二人は護民兵じゃないんですか?」

「護民兵が雇っている手下じゃ。表向きは護民兵の助手じゃが子分みたいなものじゃな。裏社会に通じている者も多く、情報収拾やらなんやらしておるのじゃ」

「ああ、なるほど」


 護民兵ってのは時代劇に出て来る岡っ引きみたいなものなんだな。

 詰め所は番屋、さっきのドワーフたちは下っ引きというわけだ。

 騎士団長は町奉行で騎士長が与力。騎士と衛士は同心って感じだろう。

 うん、このほうが近い気がする。


「新しい店が出来ておるの。ランチはここにするか」


 のじゃ子さんが指差したのは、詰め所の向かいにある店だった。


「なんか高級そうな店ですけど」


 見るからに高級レストランという店にオレはちょっとひるんだ。


「わしは大賢者じゃぞ。払いは気にするな」


 のじゃ子さんは小さな胸を張ると、先に立ってレストランへと向かった。



     3



 のじゃ子さんが前に立つと、金縁のガラス戸がひとりでに開いた。


 自動ドアだ。

 このドアも魔法で動いているのだろう。


「いらっしゃいませ」


 中に入ると、上品なウェイターに迎えられた。

 これまで大衆食堂しか入ったことなかったオレは、それだけで緊張してしまう。


「すいません、トイレはどこですか?」


 緊張で急にもよおしてしまった。


 ウェイターが示したほうに早足で向かう。さっきまでなんともなかったのに、意識すると尿意が増すのは何故なんだろう。


「あれ?」


 トイレのドアを開けようとして、ノブもハンドルもないことに気づいた。引き戸だとしても手をかけるヘコみがない。


「え? ええっ?」


 押したり、手を当ててスライドさせようとしても動かない。


「まさかこのドア、魔力で開く自動ドア?」


 オレは青くなった。


 異世界人のオレは魔力が低い。だけど自動ドア──日常生活でスイッチのオン/オフもできないくらい弱かったのか!


「開け! 開いてくれ!」


 もよおしてくる尿意に内股になりながら、オレはドアをゆすった。

 マズい! 尿意がますます増している…!


「お前! そこで何をしている!」


 突然、後ろで女の子の声が上がった。


 振り向くと、赤い髪の女の子がオレをにらんでいた。

 年齢は高校生くらい。たぶん15、6歳だろう。黒のベストを着ている。


「何って、ドアがあか…っ!」


 尿意をこらえるのに必死で、うまく言えない。額に脂汗が浮かんでいるのがわかる。


「怪しいヤツ!」


 彼女は腰から細いこん棒のようなものを抜き、オレに突きつけた。


「アタイに見つかったのが運の尽きだ! 神妙にしやがれっ!」


 なんだこの子? 用心棒か?


 いや、そんなことより尿意が! 尿意がっ! マジで…限界…っ!



今回の「異世界こぇええ…」は、異世界人はスイッチのオン/オフもできないということ。

近頃はトイレの入り口や、流すのもセンサーを使ったものがありますね。

もし、自分だけがそうしたセンサーに反応しない体質だったとしたら…恐怖以外の何ものではありませんね^^


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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