#1-11.錬金アカデミーの悪役令嬢
【まじらぼ 前回までは】
錬金術師のたまごサミちゃんに試験で不正した疑惑がかけられていた。疑惑を晴らすよう頼まれたソータは──
1
「うまっ!」
サミちゃんが必要な薬品を調合し、道具を揃える間、オレは食堂『日の出』でスープとパンをご馳走になった。
スープはシンプルだけどうま味が濃厚でとても美味い。パンも少し固いけど噛むほどに味が出る感じで食べ応えがあった。
「料理は錬金術よっ」
女将さんが笑って言う。
それって「料理は科学」の異世界版か? でも、なんか納得してしまうな。
「お待たせしましたぁ」
食事のハーブティーを飲んでいると、サミちゃんがキッチンから出て来た。
「えっ、もうできたの?」
1時間ちょっとしか経ってないぞ。
「サミは集中力がとても高いのよ」
サミちゃんの頭を撫でながら女将さんが言う。
「おそろしいほどの集中力。高純度のエーテル水を作れるわけじゃ」
と、のじゃ子さんが感心し、「えへへへ」とかわいく笑うサミちゃん。
「集中するあまり、周りが見えないことが多いけどね」
「ああ、それがドジっ子の理由か」
思わずつぶやいてしまい、サミちゃんが「はぅう…」と縮こまった。
そんな彼女を、食堂にいる客たちが微笑ましく見つめた。
「では、行くとするかの」
その後、薬品の簡単なテストをして効果を確認したオレとサミちゃんは、のじゃ子さんに連れられてアカデミーへと向かった。
商店街の先に水路があり、そこでオレたちは小舟に乗った。
この〈都〉では水路が発達していて、小舟がタクシーやバスの代わりをしている。
「あれがアカデミーじゃ」
小舟に乗ってしばらくして、その錬金術アカデミーが見えて来た。
尖った塔がいくつもある大聖堂みたいな建物だ。
いかにも歴史がありそうで、あっちの世界にあったら間違いなく世界遺産だろう。
アカデミーの裏手にある船着き場で舟を下り、オレたちは庭へと上がった。
庭も結構広くて、サミちゃんよれば本館の後ろには学生寮と薬草園、温室なんかもあるそうだ。
本館に着くと、白いローブ姿の講師らしき人が何人も迎えに出ていた。
いかにも偉い感じの人たちが、のじゃ子さんに対して敬語を使い、腰が低いのは、ちょっと面白かった。それにしても、マジでのじゃ子さんって偉いんだな。
オレたちが通されたのは実験室っぽい部屋だった。
大きくて頑丈な木のテーブル。教壇には大きな黒板が、壁には薬品や器具が並ぶ古くてゴツい木の棚があった。
その部屋で、サミちゃんと同じくらいの年の女の子が待っていた。
見るからに高価そうなドレスを着ていて、いかにもお嬢さまって感じの子だ。
顔立ちはキレイなんだけど、目つきが悪いというか、トゲトゲした雰囲気があった。
「あの子ですか?」
そっとのじゃ子さんに尋ねると、
「あれがサミを告発した投書の主。ソーエラ伯爵家のエリスじゃ」
つま先立ちして、のじゃ子さんがオレに耳打ちした。
エリスがいるのを見て、サミちゃんは、「お久しぶりです」という感じで笑顔を向けた。
しかしエリスは不愉快そうに顔を歪め、そっぽを向いた。
性格悪そうだな。あっちの世界で聞いた「悪役令嬢」とかが実在したらこんな感じだろうか。
「頼んでおいた物は用意できておるかの?」
「はい、こちらに」
のじゃ子さんに言われ、教師の一人が大テーブルの指し示した。
年季の入った頑丈な木のテーブルの上には三つの物があった。
小さな金属トレーとその上に乗せられた手紙。そしてイーサーの壺だ。
2
──イーサーの壺。
その壺は、ぱっと見、取っ手が三つついた透明なガラスの壺に見えた。
しかしよく見ると、三つの取っ手はパイプになっていて、ぐねぐねと曲がりながら壺の中を通って一本に繋がっている。
上から入れた液体が、取っ手兼パイプの中を通って壺の中と外を巡り、最後に底に落ちる…そんな仕組みらしい。
どうやって作ったのか想像もできない複雑なシロモノだ。これはサミちゃんでなくとも触るのがこわいよな。
「皆の衆、ソータを紹介しよう」
のじゃ子さんに言われ、オレは進み出た。
「この者は、今日、異世界より来たマロウドじゃ。我らには及びも付かぬ異世界の知恵を持っておる」
アカデミーの教師たちは、あっちの世界だと一流大の教授や学長といった人たちだ。
そんな偉い人たち相手に「異世界の知恵を持っている」なんて紹介されるとは……。
緊張で手と足が震え、喉がカラカラになる。
「最初に確認です」
声が上ずるのを自覚しながら、オレは言った。
「イーサーの壺を発見したのは誰ですか?」
「私だ」
一番若い──といっても40は越えていそうな先生が答えた。
「発見されてから現在まで、あなたの他、壺に触れた人はいますか?」
「いいえ。誰も触れていません」
「洗ったり、拭いたりはしました?」
「いえ何も」
「よぉしっ!」
思わず、拳を握りしめ、叫んだ。
なんだこいつ? という視線が集中する。
と、とにかく、これで一番の心配はクリアだ。
オレは大げさにせき払いして、用意してきたガラスのコップを取り出した。食堂『日の出』から借りたもので、今は布でくるんである。
「このコップは、よく洗った上、布で包んで誰も直接触れないようにしてあります」
包んでいた布をほどいてコップを出すと、オレはその下のほうをしっかりと手に持った。
「どなたか、このコップを持ってくれませんか?」
近くにいた白髭の先生がコップの上のほうを持った。
「今、このコップには、オレとこちらの先生しか触れていません。──サミちゃん」
「はいっ」
テーブルに置いたコップを、サミちゃんが白い粉をまぶした小さなブラシでぱたぱたとはたく。
「うむ?」
アカデミーの先生たちが小さな声を上げた。
ガラス製のイーサーの壺。その表面に、くっきりと指紋が浮かび上がっていた。
悪役令嬢の元祖ってなんでしょうね?
シンデレラの義姉あたりかな?
乙女ゲーは嗜まないのでわかんないなあ。
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