#1-10.ドジっ子に悪人はいないのだ
【まじらぼ 前回までは】
知恵を借りたい、というのじゃ子さんに連れられてソータは街の食堂に。そこでドジっ子の看板娘サミちゃんと出会う。彼女の難儀とは──
1
「さっきも言ったが、サミは錬金術アカデミーの一年生じゃ。全寮制で、試験に合格すれば平民でも入ることが出来る」
「平民でも……」
オレはサミちゃんに眼を向けた。
「うむ、先代王が、平民にも門戸を開くよう改革したのじゃ。──ちなみに、サミの家は郷士。準貴族ともいって、身分的には貴族と平民の間じゃな」
「え? するとサミちゃんはお嬢さま?」
てっきり庶民だと。
いや、天然ぽいところはお嬢さまらしいといえばらしいか。
「わたしのお家は田舎の旧家ってだけですよ。とてもお嬢さまだなんて」
あわててぱたぱたと手を振るサミちゃん。
「謙遜するな。ドステン家は東方で十指に入る名家じゃろ。歴史と家格ではその辺の貴族たちなぞ及びもつかぬ」
「そうなんですか?」
サミちゃんのほうが驚いているし。
「これじゃ」
と、のじゃ子さんは苦笑して続けた。
「とにかく、サミの家は由緒ある家で、老舗のワイナリーでもある。じゃから娘をアカデミーに入れたのじゃ」
「醸造とその過程で出る汚水の処理。絞りかすを使った蒸留酒作り。あらゆることに錬金術が関わりますから」
のじゃ子さんの後を継いでサミちゃんが言う。
なるほど。やっぱりこの世界の錬金術って化学なんだな。
「ところがこのサミ、錬金アカデミーはじまって以来の劣等生でな。成績は学年最下位じゃ」
「あううう……」
真っ赤になって俯いてしまうサミちゃん。
「ひょっとして、回答欄を間違えて書いちゃったとか?」
「どうしてわかったんですか?」
声を上げるサミちゃん。
「オレも前に似たようなことやったから」
さっきのドジっ子ぶりをみて…とは言えない。しかし案の定だったか。
「そうじゃったのか。なるほど……」
一方、のじゃ子さんは何か納得していた。
「さて、ここからが本題じゃ」
ハーブティを一口飲んでからのじゃ子さんは続けた。
「先月のことじゃ。錬金術のコンクールで、サミの作品が入賞した」
「へぇ。サミちゃんって実技が得意なんだね」
「ええ」
あれ? サミちゃん、なんか沈んでないか?
てっきり「えへへへ」と照れると思ったのに。
「ところが、サミが出したエーテル水に不正の疑いがかけられた」
「ええっ!?」
2
錬金術で生み出される物は、その過程でほぼ必ずエーテル水というものが使われるらしい。つまりエーテル水は錬金術の基礎アイテムだ。
コンテストはこのエーテル水の純度を競う、というものだった。
「学年最下位のサミが入賞するほどのエーテル水が作れるはずがない…との噂が立ったのじゃ。そして間もなく、あれはアカデミーの備品『イーサーの壺』で作ったものだと投書があったのじゃ」
「わたし不正なんかしてません!」
サミちゃんが大声を上げた。
「うん、信じるよ。サミちゃん」
会ったばかりだけどオレは確信していた。
サミちゃんは不正とかするような子じゃない。ドジっ子に悪人はいないのだ。
「確認したところ、アカデミーにあったイーサーの壺がなくなっていた。で、サミの部屋が調べられ、件の壺が見つかった…というわけじゃ」
錬金アカデミーの生徒はすべて寮で生活しているそうだ。その学生寮のサミちゃんの部屋でイーサーの壺とかいうが出てきた、と。
「わたし知りません。イーサーの壺だって、触ったこともないです」
「アカデミー側は、素直に不正を認めるなら処分は穏便にという方針じゃったが、この通りサミは不正を認めない。で、一ヶ月の停学処分となったのじゃ」
「そんな…ひどくないですか?」
不正だと決めつける学校側に、オレは腹が立った。
「じゃが、サミの部屋にイーサーの壺があったのは事実。アカデミーとしてはこれでも温情ある処分のつもりなのじゃ」
「そんなの、誰かがサミちゃんの部屋に置いたかもしれないじゃないか」
「その通りじゃ。で、それをどう証明する?」
「ぐぬぬぬ……」
確かに。証明できなければ「やった」「やってない」の水掛け論だ。
「お主の知恵を借りたいというのは、これなんじゃが。わかっておるか?」
「へ?」
「サミの無実を証明する知恵はないか、と聞いておるのじゃ。察しが悪いのう」
呆れるのじゃ子さん。
「も、もちろん! わかってますよ!」
と、言ったものの、どうしたらいいんだ?
「ソータさん、お願いします。わたし、不正なんてしてません……」
悔し涙を浮かべるサミちゃん。そこに──
「頼むよ。サミを助けてくれ」
お店の女将さんらしき人──エプロンをかけたおばさんが来て言う。さらに、
「あんたマロウドなんだろ? 知恵を貸してくれよ」
「サミちゃんを助けてくれ」
「好きなものおごるぜ。異世界の賢者さん」
と、店内にいた客たちまでオレを囲んで、やいのやいの言うのだ。
この店の客はみんなサミちゃんの応援団か? ファンクラブか?
「待って! ちょっと考えさせて」
あまりの勢いにこわくなって、オレは叫んだ。
応援団は黙ってくれたが、その視線はオレに注がれている。
オレは普通の大学生だ。
異世界から来たってだけで、錬金術も、この世界のこともまるでわかっちゃいない。なのに賢者とか思われているし……。
……どうすりゃいいんだ?
3
オレが悩んでいると、パタパタという羽音がした。
「うわっ」
店の中に、青と白の半透明の小鳥が飛び込んで来た。
通りで頭の上を飛び交っていた鳥だ。
小鳥はのじゃ子さんの元へと向かうと、ぽんっと小さくはじけ、その姿を手紙に変えた。
「──メールバード。この世界の手紙は、鳥に変身して自ら宛先の元へと飛んで行くのじゃ。封筒に魔法がかけられておってな、値はちと高くなるが、住所ではなく個人の手元に届くものもある」
呆気にとられるオレにそう言うと、のじゃ子さんは三角の封を開け、便せんを取り出した。でもすぐに、
「むぅ…眼鏡を忘れたのじゃ」
と、顔をしかめた。
幼女なのに老眼らしい。
のじゃ子さんは空中に光る数式を描きはじめた。魔法を使うのだ。
なんとなく見ていると、のじゃ子さんはフィニッシュの二本線の後、左の指でオレを指差した。
「わっ!?」
オレの胸の辺りが微かに光った。
いや違う、横書きの文字が並んでいる。これってのじゃ子さんに届いた手紙か? オレの胸をスクーリン代わりにして、手紙を拡大投影しているのか!
「ふぅむ……」
驚くオレをほっといて、のじゃ子さんが手紙を読みはじめた。
よく見ると、のじゃ子さんは右手の人差し指と中指で手紙を指したままだった。
「のじゃ子さんの指って、カメラになっているんですか?」
言ってから、この世界にカメラなんてものがあるわけないことに気づいた。
「まあそんなものじゃ」
「この世界にカメラあるんですか!」
「おぬしの世界のものとはちと違うがの」
さすが魔法文明だ。
「これは光の魔法の一種じゃ。指差したものを別の場所に投影する。投影した後は、このように──」
のじゃ子さんが、その小さな指をちょいちょいと動かすと、
「指の操作で拡大、移動が行えるのじゃ」
指の動きに合わせて、文字が拡大されたりスクロールしたりした。
「すっごいレベルの高い魔法ですよ。これ」
サミちゃんが目をぱちくりして言う。
そんな高度な魔法を、メガネ忘れたからスマホで拡大、みたいに使うなんて──
「──あ」
その時、オレは閃いた。
「のじゃ子さん、これって二つのものを一つに重ねたりできます?」
「こうか?」
のじゃ子さんが左手を振ると、オレの胸に投影されていた手紙の映像が近くの壁に移動した。続いてその隣に、手紙の二枚目が現れた。
のじゃ子さんが右手の指をちょいちょいすると、二つの手紙同士が近寄り、一つに重なった。
これならいけるかも!
「サミちゃん。例の壺、触ったこともないっていうのはほんと? あと壺の材質は?」
「はい、触ってません。イーサーの壺はガラス製ですから、うっかり割ったらと思うと怖くて……」
ぶるぶるとサミちゃんは震えた。
きっとお高いのだろう。その上ガラス製だから、ドジっ子のサミちゃんは触れもしなかった、と。
「もう一つ。これからオレが言うモノ、サミちゃんは作れる?」
オレは思いついたアイデアと、それに必要な薬品とか道具とかを話した。
「はい、用意出来ますよ」
元気に即答するサミちゃん。さすが錬金術師だ。
「なかなか面白いのう」
のじゃ子さんは目を輝かせ、ハーブティを一口飲んだ。
期待した方がいたら申し訳ないですが、この作品ではいわゆる攻撃魔法は出て来ません。
この作品で描かれるのは魔法の文明、生活のすみずみに魔法が存在しているというものです。
そこには法則があり、原理があります。
そのうち法則や原理について語るシーンも出て来ますのでお楽しみに。
需要あるかは不安ですが…^_^;
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