それを人は恋と呼ぶのか?
一途な男の純愛です。
白い雲
橙色の空
黒く冷たいコンクリート
そこに寝転がる自分
から
流れ出し、
コンクリートを更に赤黒く染め
ながら土や服、カバンに染み込み
自分を中心として円形に拡がって
自分の体温を奪いながら私の血管
から滴り落ちる
血
どうしてこんなことに。薄れゆく意識の中走馬灯が 流れる。
最初は友人の誘いからだった。
「ねえ、行ってみようよ、樫高の文化祭!」
友人は前の席から体を乗り出し、目の前に
チラシを突き出してきた。そのチラシにはおそらく
アナログであろうイラストや文字で一昔に流行った
ほのぼの村づくりゲームをパロディしたデザインで
「おいでよ!樫の木祭!!」
と書かれていた。授業が終わった直後突然
言われたので2.3秒ほどは反応ができなかった。
とりあえず適当に返事をする。
「あ、ああ樫祭ね、そろそろだっけ?」
樫祭。それはわが校、野乃花高校から2駅ほど離れている樫の木高校で行われる文化祭で、
毎年どの展示や出し物もクオリティが高く、この辺りの地域ではほとんどの学生が知っている。
「樫高って男子校じゃん?やっぱりうら若き乙女である私としてはとってもとても気になるんだよねぇ。」
そう言いながらまだ3時間目が終わったばかりなのにお弁当を食べようとしている彼女は小学生からの幼なじみ、平井明日香だ。お弁当を頬張りながら日程や
集合時間を言い出した。思わず私は
「ち、ちょっと待って!まだ一言も行く、なんて言ってないって!!」
「なんで?あんたも気になるでしょ?樫祭。」
確かに気になる。この地域ではずっと昔から有名な
樫祭。中学生の頃、樫高に通う兄を持った友達に
着いて1度行ったこともあるが、それはもうすごかった。正直行きたい。明日香が言った日程も時間も問題ない。もはや断る理由がなかった。
数日後、明日香と駅前で待ち合わせし二人で電車に乗り樫高へ行った。電車に乗ってる間や歩いている時もずっと明日香はかっこいい男子は何人いるかの話や効率よく出店のご飯を食べられる順番の話などをずっとしていた。きっと帰りの電車でこいつは寝るだろうから、今日だけで3大欲求フルコンプだ。なんて考えているともう樫高前に着いていた。
樫高祭は大いに盛り上がっていた。男子校ということもあるだろうが、野の花高校との文化祭とはやる気というか、熱気が違った。門をくぐり校内に入るまでに出店の人から、
「そこのおふたり!焼きそばはどうですか!?
フランクフルトもありますよ!!」
「射的1回100円!射的1回100円だよ!やらなきゃ損だよ!」
などのキャッチ紛いの声掛けを受けたが、
明日香は食べ物を出している出店にしか興味がないようだった。明日香が買いまくった食べ物をビニール袋に入れ手にかけたまま校内を歩いていると、明日香が
急に足を止め耳もとで囁いた。
「あの人、見える!?あのポスター貼ってる、ちょっと前髪長い人!!!」
明日香の視線の先には確かにポスターを貼っている背が高い男子が見えた。が、前髪が長く目は見えなかった。 いつの間にか隣から消えいつのまにか例の男子の横に立っていた明日香は猫なで声で、
「お兄さぁん、ポスター貼るの、手伝いますよぉ。」
と言い手伝おうとはしているものの、あの男子よりも背が低い明日香が何を手伝うと言うのか。見るに耐えなくなったので、仕方なくビニール袋を持ったまま手伝うことにした。
「ありがとう。手伝ってくれたおかげで
早く終わったよ。」
彼がそう言い終わるやいなや、明日香は
「お兄さん、連絡先交換しませんかぁ?メルアド
じゃなくて、電話番号でもいいんで!」
…どちらも同じような感じではあるが、明日香はどうしても彼とお近付きになりたいらしい。そろそろうんざりしてきたので、彼から明日香を引き剥がそうと
明日香の肩に手を置いた瞬間、彼がこちらを見たような気がした。すると
「いいですよ、ただし2人とも交換させてください。」
と何故か巻き添えをくらった。さすがに拒否しようとしたが、明日香の無言の圧を喰らい、泣く泣く交換することにした。
帰宅後、特に彼からの連絡はなかった。しかし数ヶ月後、彼からの連絡がきた。明日香と彼は頻繁に連絡を取りあっていたらしい。すると話の流れで、遊びに行くことになり彼がせっかくなら、と自分にも連絡がきた。あまり乗り気ではなかったが、仕方なく行くことにした。
行先は近くにある水族館で、彼と明日香だけなら本当にただのデートにしか見えないような場所だった。
彼と明日香は楽しげに水槽を見ており、自分が何故ここにいるのかが時たま分からなくなっていた。結局彼らのイチャつきを見せつけられただけで、休日が1日終わった。そろそろ帰宅する時刻になり、自分が住んでいるアパートの最寄り駅の切符を買おうと券売機に並ぶと、彼も並んだ。どうやら彼も同じ駅に行くらしい。明日香は「2人きりになるのが羨ましい」と恨み言を吐きながらバスで帰っていった。彼と2人きりの電車は少し気まずくて、大した事も話せなかった。明日香ならもっと気楽に話せるのに。
帰り道、そろそろアパートが見えてくるといったところで、
「じゃあ、また今度。」
と気まずさから逃げるように言うと、彼は
「僕、部屋の前まで送りますよ。」
と言い出した。そんな距離の詰め方をされるような仲でも無ければ、自分は彼にそんなアピールをしているつもりもなかったので、やんわり断ろうとしたが、頑なに送ろうとしてくるので、根負けして送ってもらうことにした。
結局部屋の前まで着いてきてもらった。ドアの鍵を開けようとカバンを探りながら、何気なく彼に聞いてみた。
「君が好きだから。」
思ってもみない返事だった。理解できなかった。
だって彼が好きなのは明日香だと思ってた。
しかも、しかも俺は男だ。
俺は心の底から黒く熱い嫌な想いが湧き出てきた。
俺から明日香を取ろうとしていたんじゃないか。
俺にその過程を見せつけるために、連絡先まで交換 して、今日も誘ったんじゃないのか。
おもわず立ちくらむ。よろけながらドアに手をつく。
彼が心配した様子で俺の肩を持つ。
触るな。触るな。その手で、明日香を騙し俺たちに近づいてきたその手で、自分のために純粋な明日香を利用したその手で、お前を想う明日香の気持ちを踏みにじって餌にしたその手で、
おもわず力いっぱい彼の肩を突き返す。
人生でこんな力を出したのは初めてかもしれない。
彼の体が宙に浮く。そのままアパートの廊下の手す りに彼が打ち付けられる。彼は頭を打ったらしい。その衝撃で彼のカバンが下へ落ちる。彼はカバンを掴もうと身を乗り出した。頭を打った状態で平衡感覚がまともな訳が無い。彼はそのまま、頭から下へ落ちた。
俺は悪くない。正当防衛だ。近づいてきたあいつが悪い。明日香を利用し、俺に言いよってきたあいつが悪い。俺はおかしくない。まともな判断だ。あれが正解だった。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。
なぜ彼があれほど激怒したのかは分からない。きっと僕の何かが気に入らなかったのだろう。何がダメだったかだけ知りたかった。きっと君に相応しい男になるから。まだ僕たちはこれからだから。
まだ僕は彼のことが好きだから。
この作品はフィクションです。
この作品に同姓愛を批判する意図はありません。




