6.ダンジョン最深部
うーん……あの人たち、なかなか諦めてくれないわね。
後ろについてくる三人の様子を見ながら、風魔法ウインドカッターを使って新手のブラックボアを切り裂く。
呆れつつ鑑定まがいの魔法を使って彼らのステータスを覗くと、全員がレベル七十前後。だがスキルのおかげなのか、彼らのステータスよりもレベル四十の私のステータスの方が高い。
このダンジョン、二十階層を過ぎてからずっと一本道……どうにかあの人たちを撒けないかしら……。
すると、不意に視界が開けた。左右の壁も地面も無くなり、広くそこが見えないほどに深い亀裂に出たのだ。
「キキィッ!」
甲高い鳴き声が響いた次の瞬間、高くなった天井の鍾乳石に張り付いていた人間大のコウモリ──ケイブバットが数匹、急降下してくる。
はやっ! 魔法じゃ間に合わない……。
目の前に迫ったコウモリたちが口から覗かせる牙が、ダンジョンの青い光を反射し、鋭利に輝く。その瞬間、私は重心を落として拳を握りしめた。
ドカッ!
「キギッ!」
私は、レベルアップによって爆上がりしたステータスにものを言わせて拳を振り抜く。すると、殴ったケイブバットは跡形もなく消し飛んだ。そして私は無数の氷柱を生成して、天井に張り付くケイブバットに射出した。
「すごいです……あの数のケイブバットを一瞬で倒してしまうなんて」
「ああ、本当にすごい子だ……だが足は止まった。この隙に追いつくぞ!」
まずいわね。今のは時間を使い過ぎた。このままじゃ追いつかれる……。
すぐさま駆け出そうとしたその時、脳裏をよぎったある考えが、私の足を止めた。
この亀裂を飛び降りれば、あの人たちも追ってこられないんじゃない? ダンジョンは下へと伸びているのだから、きっとショートカットにもなるし……。
トンッ……。
「ちょっ……!」
「嘘……だよね……」
「早まるな! ここで一人になるのは危険だと言っているだろう!」
私を追いかけていた三人は、顔を青くして亀裂を落下する私を覗き込む。そんな彼らと目が合った私は、勝ち誇った微笑みを浮かべてみせた。
「私はたとえ、あなたたちが死にそうになっても手は貸さないけれど……それでもいいなら追いかけてきなさい」
これでもう追いかけてこないはずよね? ようやく一人でダンジョン攻略を満喫できるわ。そろそろ歯ごたえのある敵も出てきそうだし、楽しみね。
その時の私は、風魔法を準備して着地に備えながらも、ほんの少し気を抜いてしまっていた。
「下を見ろ! 魔獣が来るぞ!」
ゼルの声に、これからの展開を想像して悦に浸っていた私の意識は呼び戻される。私はすぐさま体を百八十度回転させ、顔を下に向けた。
「くっ……とんでもない数だ。俺たちも加勢する。いいな?」
「もちろんです」
「なら……いくよ。風よ、我が願いに応え、我らを運ぶ翼となれ。フライ」
「よし、飛び降り……」
これだけ広い空間なら、洞窟内だから空気がなくなる、なんて気にしないで火属性魔法を使ってもいいよね。
ドゴオォォォオォォン!
ダンジョンを駆け巡る爆発音に、溶岩の海と化した亀裂の底。当然魔獣は一匹残らず消し炭になった。
「あれ? 少し、威力調整を間違えたかしら……」
魔法で落下の勢いを殺して浮遊した私は、溶岩から熱を吸い取るイメージで魔法を使い、溶岩を上に乗ってもいいようになるまで冷やして固める。その頃になってようやく、王の鉤爪の三人が亀裂の底に降り立った。
「なあゼル……ボクたち……本当に必要なのか?」
細身、長身の体を丸めて、杖を弄りながらオドオドと話すユーク。そんな彼の言葉を持ってしても、ゼルは依然として考えを変えなかった。
「当然だ。どれだけ彼女が強かろうと彼女も人間。一人ではミスや不意打ちに対処することは難しい……特にこの、未到域エリアではな。だから俺たちは、恩人にもしものことがないようについて行くんだ」
「そうですよ。わたしたちにだってあの子のためにできることがあるはずです!」
追いつかれたか……でもこの大きい扉は多分……。
亀裂の壁面には、二十階層にあったボス扉と同じような扉があった。私はその扉の前まで行くと、躊躇いなく押し開ける。その瞬間、扉の中からおぞましく淀んだ空気が溢れ出す。
「なんだ?!」
「ものすごい威圧感です……」
「こ……れは……」
Aランク冒険者の三人が気圧されるなか、私はボス部屋に一歩足を踏み入れる。そこには、体長五メートルはありそうな二足歩行の黒い牛型魔獣──ミノタウロスが、その胴体よりも大きな斧を両手に一本ずつ持ち、佇んでいた。
すごく強そう……。
「ようやく出会えた倒し甲斐のある魔獣……あなたたち、私の戦闘の邪魔、しないでくださいね?」
私は三人が戦闘の邪魔をしないよう戒めるため、冷淡な目で振り向いた。だが、三人はすでに微動だにせず、無言でミノタウロスを凝視していた。
とりあえず、邪魔は入らなさそうね。
私はボス部屋の外に落ちていた片手剣を魔法で手繰り寄せ、右手に構えた。そして、切先越しにミノタウロスの頭を見据え、地面から巨大な岩石を幾つも生み出した。
「ダンジョンのラスボスさん。私の相手、してもらおうじゃない!」
この話を読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけたら、
ブックマーク登録や、
↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!
星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。




