5.ボス戦
ん? 先にボスと戦っている人がいる。ボスの横取りとかマナー違反よね……。
大人しく観ていようと思い、私は入り口で立ち止まる。だが、私の目線にナイトゴーレムが入った途端、自然と足が地面を蹴っていた。
あの魔獣と戦ってみたい。マナーなんてどうでもいいわ! なんたって今の私は悪役令嬢なんだから。
私は中にいた剣士らしき男の横を通り抜け、表情を引き締め剣を鞘から引き抜く。そして、ナイトゴーレムによって振り下ろされる黒い大剣を側面から叩く。
ガキイィィィイィィン!
するといとも簡単に大剣が吹き飛び、ナイトゴーレムはのけ反った。
「君は……」
すぐ側から、男の声が聞こえた。私はナイトゴーレムと向き合ったまま、男に声をかける
「あなたたちには悪いけど……このボス私が貰うわ」
私は強く踏み込むと同時に風の支援魔法を発動し、一瞬にしてナイトゴーレムの後ろに回り込む。
ギギイィィ……。
ナイトゴーレムは体勢を立て直し、回り込んだ私に向かって拳を振り下ろす。私は半歩横にずれて拳を回避。そのままナイトゴーレムの腕を足場にして、ナイトゴーレムの鎧の隙間に向かって剣を突き出した。
パリイィィィン……。
だが、鋼鉄で作られたナイトゴーレムの体には、鉄製の剣では歯が立たない。正確に鎧の隙間を突いても、私の剣は呆気なく砕け散った。
「うーん……やっぱり剣はまだ早そうね」
私はナイトゴーレムの拳をかわして距離をとる。すると、ナイトゴーレムは大きな図体を揺らして近づいてきた。
「古今東西、どんなゲームやアニメでも、金属製の魔獣は電撃に弱いのがセオリーよね」
私は右手で頭上に円を描き、指を鳴らした。
バリッ……ドゴドゴドゴオォォォオォォン!
ナイトゴーレムに降り注ぐ幾つもの雷鳴は、ナイトゴーレムに膝をつかせるには十分な威力だった。雷をもろに浴びたナイトゴーレムからは黒い煙が上がり、目の赤い光が消えた。
『レベルが十段階上がりました。現在のレベルは四十です』
ボスって言うからもっと手強いものだと思っていたけれど、結局一撃だったわね……でもダンジョンはまだ五階層残っているのだから、まだまだ楽しめるはずよね?
私は壊れた剣の鞘を捨てる。そして、いつの間にか現れていた新しい通路に足を踏み入れようとしたその時、
「ま……待ってくれ!」
剣士の男が声を上げた。
「何か?」
早くダンジョン攻略の続きをしたいのに……。
私は億劫そうに振り向くと、傷だらけで倒れている三人が目に入った。
そうか。この人たちはこのままだと死ぬ。傷を癒すくらいはしないと薄情……か。
私は手のひらを倒れている三人に向けた。そして私が回復魔法のイメージを思い描くと、倒れた三人を優しい緑色の光が包み込む。
「この傷が一瞬で……これはまさか、回復系統の最上級魔法──リザレクションなのか?」
「んん……」
「ボクは何を……」
三人の怪我を癒やし終わると、気絶していた二人も目を覚ました。
「ユーク! セレナ!」
剣士の男が声を上擦らせて、細身の青年と小柄な少女を抱き寄せる。
「ゼルさん……? わたしたちはどうなって……」
「俺たちは助かったんだ! そこにいる彼女が、ボスを倒してくれたんだ」
「この子が……あのその……君、ありがとう……ございます」
剣士の男──ゼルに抱きつかれたまま、細身の青年──ユークは、その長身に見合わない自信無さげな声でお礼を言う。
「あ、ありがとうございますっ!」
ゼルに抱きつかれて苦しそうにしている小柄な少女──セレナは、顔の周りにキラキラのエフェクトをつけたくなるほど明るい声と表情でお礼を言った。
「俺たちを救ってくれたこと感謝する。俺はゼル、何か礼をさせてくれ」
オレンジ色の瞳で私を見つめてくるゼル。私は彼に背を向けて、ダンジョンの奥へと歩き出す。
「お礼なんていらないわ」
この国に住む人たちみんな、五年後には私の手で死ぬ。彼らがいつ死のうと私には関係ない。助けることにも、本当は意味がないのだけれど……。
「君、このままダンジョンの先に進むつもりなのか? 危険だぞ。未到域は何が起こるかわからない。いくら君が強いとは言え、一人では対処できないことも起こるかもしれない」
「それがどうかしたの? 初見の出来事に対応するのがダンジョン攻略というものよ」
「それは……そうだが……」
ゼルが言い淀んだ瞬間、私は走り出した。
せっかくの初ダンジョン攻略なんだから私の好きにやりたい。見ず知らずの人たちに気を遣って、足並みを揃えるなんてごめんだわ。
「待っ……」
「追いかけましょうよゼルさん。あの人は私たちの命の恩人なんでしょう?」
「ボ、ボクも……恩人を見殺しにするなんて……目覚めが悪いって……思った」
「そうだな。ユーク、セレナ。彼女を追うぞ!」
三人が私を追って、ボス部屋の先の通路へと足を踏み入れる。
なんで追ってくるの? 死んでも知らないわよ。
私は前を向き、風の支援魔法を使って速度を上げた。
「……?! 速すぎる!」
私が加速してすぐ、ユークが杖を地面に突き立てる。
「風よ、我が願いに応え、我らの背を押したまえ。ウインドブースト」
杖から巻き起こった風が三人の体を包み込み、三人の足が速くなる。
「これでもダメか……」
開く距離に歯噛みするゼルに、セレナは冷静に発言する。
「あの人はわたしたちの前を走っています。当然魔獣と戦うのはあの人です。そうなれば必ず足が止まる」
「そうだな。おっ! 言ったそばから魔獣のお出ましだぞ」
私の前に、鋭いツノと牙をもつ、四足歩行の猪型魔獣──ブラックボアが現れた。そしてそのまま、ブラックボアはその大きな体からは想像できないスピードで真っ直ぐに突進してくる。
「ブラックボア──表皮がミスリルよりも硬いって言われている魔獣。……あれならきっと、足止め……してくれるはず……」
ズドドドッ……。
私は一切止まらずに氷柱を飛ばす。すると氷柱は容易にブラックボアの体を貫通。ブラックボアは突進の勢いのまま地面を滑り、倒れた。
「「「えっ?!」」」
「俺たちのようなAランクパーティーでさえ手こずるブラックボアでさえ一瞬で倒すのか……」
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