4.初ダンジョン
王都から一番近いダンジョン『青岩の洞窟』。私は今、『青岩の洞窟』の入り口に立っている。
「ついに……ダンジョン」
ファンタジーの代名詞の一つ、ダンジョン。私はその入り口を見て息を呑んだ。そして、ダンジョンの入り口を管理している兵士に冒険者カードを見せる。
「君がさっき連絡のあった特例のCランク……こんな可憐な女の子が……」
兵士はしばらくの間、私のカードをじっと見つめる。
まだなの? 早くダンジョンに入りたい。
「まだかかるの?」
精一杯冷たい声で放った私の言葉に、兵士の肩が跳ねた。
「あ、ああ……ダンジョンへの立ち入りは問題ないよ」
「ありがとうございます」
私は兵士から冒険者カードをひったくるように受け取ると、ダンジョン入り口の大きな扉を開けた。
「すごい……地面も天井も壁も、全部うっすらと青く光ってる……」
ヒュオォォォ……。
ダンジョンから、私の体を撫でる冷たい風が吹く。
すごくいい……雰囲気最高よ!
「ダンジョン攻略、開始ね」
ダンッ!
私は風属性の支援魔法を自分にかけ、全速力でダンジョンを走り出した。
「ギルマスのボワルグさんによると、このダンジョンには二十五階層ある。それで、冒険者が到達できた階層は二十階層まで。前に二十階層に行ったパーティーは二日かかったみたい……元ゲーマーとしては、やっぱり最速で到達してみたい」
「グギッ!」
不意に、脇道から緑色の肌を持つ人間の子供のような体格をした魔獣が現れた。──ゴブリンだ。
「ゴブリン……生で魔獣を見られて嬉しいけど、今はタイムアタックが優先」
ドスッ……。
私は氷柱を生成し、銃弾ほどの速さでゴブリンの脳天を貫いた。
ブォンッ!
何? 急に体が軽くなって……なるほど、レベルが上がったのね。
足を止めずにステータスウィンドウを開くと、
「スキル『能力上昇量二倍』により、全ステータスがレベルアップ前の二倍になりました」
と表示された。
えっ! 二倍って上昇量が二倍なんじゃなくて、元のステータスの二倍ってことなの?! それチートすぎない?!
「……っと。またゴブリン。今度は六匹ね」
今度はロックバレットにしようかしら。
私が魔法名を思い浮かべた途端、頭上に六つの石礫が形成される。
「ギ、ギィィッ!」
私に気付き、棍棒を振り上げるゴブリンたち。ゴブリンの群れに足を踏み入れる、その瞬間に私は、石礫でゴブリンたちを薙ぎ払う。
「レベルが上がりました。全能力値が二倍されます」
その後も私は、ゴブリンやコボルト、オークなどのファンタジーな魔獣を倒しながらダンジョンを進んだ。
「誰だあの嬢ちゃん……ハエェしツエェ……」
「ここ十三階層よね?! なんであんなにあっさりと魔獣を倒してるのよ!」
「若いって、すごいのぉ……」
道中すれ違った冒険者たちはみんな、何故か私に引き気味だった。
***
「ついたわね、二十階層。タイムアタックは私の勝ちね」
私は支援魔法を解除して、青く光る地面に寝転がった。
「久々にいい汗かいたわ……楽しい」
見上げると、青く光る天井は岩の凸凹によって所々暗くなっていて、満天の星空のようだった。しばらくの間、私は天井に映し出された星空を眺める。そして、上体を起こして呟く。
「私、本当に異世界に来たのね……」
神秘的な空間に、改めて異世界に来たことを実感すると、立ち上がって前を向いた。
「さて、そろそろ二十階層の攻略を始めようかしら。ギルマスが、二十階層にはボス部屋があるって言ってたような……」
進んでみると、二十階層はほとんど直線の通路のみがあり、魔獣も現れなかった。しばらく歩くと、人間の背丈の何倍もある巨大な扉が現れた。
「いかにもって感じの扉ね……」
私は持ってきた剣の鞘をいじると、
「このボス戦、剣を使ってみるのも悪くないかも」
そんなことを思って深呼吸をしてから、扉を思いっきり押し開けた。
***
シルヴィアがボス部屋に乗り込む少し前。
「ユーク……セレナ……」
ボス部屋の中には、傷だらけになって片膝をついた剣士の男がいた。
「うぐ……」
その近くには、杖を持った細身の青年と、シルヴィアと同じくらいの歳の短剣を持った少女が血を流して倒れていた。
「ナイトゴーレム……ここまで強いのか……」
剣士の男は、目の前に立ちはだかる巨大な鋼鉄のゴーレムを睨んだ。そのゴーレム──ナイトゴーレムは黒光りするミスリル製の鎧を身に纏い、同じくミスリル製の黒い大剣を構えている。
ギロッ!
不意に、ナイトゴーレムの赤い瞳が剣士の姿を捉えた。そして、大気を引き裂く音とともに大剣が振り下ろされる。
「……っ! うおぉぉぉ!」
骨が折れた左足を引きずりながらも立ち上がり、剣士は剣を寝かせて大剣を受け止めた。だが……
バキンッ……。
「そん……な……」
剣士が持つ剣は折れ、刃は宙を舞い地面に突き刺さる。剣士は膝から崩れ落ち、血まみれになった自分の手を見下ろした。
「俺たちが──王都最強にまで上り詰めた『王の鉤爪』が、こんなところで終わるのか……?」
ギシッ……ギシッ……。
怠慢な動きで剣士に近寄り、剣を頭上に掲げるナイトゴーレム。それでも剣士は顔を上げることすらできないでいた。
「終わり……なのか」
剣士が小さな声で吐き捨てた諦めの言葉。それと同時に、ナイトゴーレムは剣士の頭蓋を狙って大剣を振り下ろした。
バタンッ!
ボス部屋の扉が開く音に、剣士の肩が跳ねる。
ガキイィィィイィィン!
次の瞬間、金属同士がぶつかる音がダンジョンに鳴り響き、ナイトゴーレムの大剣が弾き飛ばされた。その音に顔を上げた剣士の視界の中では、ダンジョンの淡い光を反射して煌めく、銀色の長い髪が舞っていた。
「女神……? いや、君は……」
「あなたたちには悪いけど……このボス私が貰うわ!」
そう言うと銀髪の少女は、その長く美しい髪を靡かせ、ナイトゴーレムに切りかかっていった。
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