32.新たなスキルと魔法習得
「ノアは大丈夫そうね」
私はノアの有能っぷりを思い出し、一人自室の天井を見上げて寝転ぶ。ぼんやりとフカフカのベットに横たわっていた私は、なんとなくステータスを確認した。
『シルヴィア・レイネル
レベル:100(MAX)
スキル 能力上昇量二倍
経験値獲得量二倍……』
「レベルマックス?! ……フフッ、それもそうね。道中の山賊たちに大多数のラドスの住人、それに魔獣混成奴隷。たくさん殺したものね」
私は明らかに桁数が多い能力値を眺めながら満足げに寝返りをうつ──ただし魔力量だけは相変わらず低かったが……。
「ん? スキル増えてる」
増えたスキルは『破壊の加護』。説明を読むと、
「破壊を目的とした魔法行使時において魔法の威力、範囲が大幅に上昇する」
というスキルらしい。
「当分は表立って滅国を進めるつもりはないし、試すのは随分と先になりそうね。前みたいに庭で試すわけにもいかないし……」
そんなことを考えていると、コンコンコン、と部屋の扉がノックされた。
「シルヴィアお嬢様。ノアでございます。お時間よろしいでしょうか?」
落ち着いた美声を聞いて、私はステータスを閉じ、上体を起こしてベットに腰掛ける。
「どうぞ」
ガチャリと音を立てて開く扉からは、メイド服姿のノアが入ってくる。そうしてノアは、扉の前で優雅に、されど謙虚な従者としてのお辞儀を披露した。
「シルヴィアお嬢様。あたしは本日よりお嬢様の専属メイドとなるノアでございます」
もう許可が降りたの? つまりもう大体の仕事を覚えたってこと?! コンビニバイトくらい覚えることが多いメイドの仕事を全部一日で?!
主の威厳を保つべく、顔には出さないようにしてノアの偉業に驚いていると、ノアは頭を上げて早速部屋の掃除に取り掛かった。
メイドたちが私を恐れているため、一か月足らずではあるが、記憶を取り戻してからは部屋の掃除は自分でしていた。だが、そんな私とはまるで比べ物にならない速さと丁寧さを兼ね備えたノアの技に、私の部屋は瞬く間に磨き上げられていく。
「ノアはすごいわね。こんなに速く綺麗に掃除できるなんて……」
「このくらい当然です。以前はこのくらい出来ないと、すぐに殴られていましたから……」
目を逸らし片腕を抱えたノアの肩は小刻みに振るえていた。そんなノアを見て、私はベットから立ち上がる。
「ごめんなさい……嫌なことを思い出させてしまったわね」
「いえ、もう終わったことですから。これは、終わったことを忘れられないあたしの弱さです」
「町を滅ぼしても罪悪感一つ湧かないような私に、こんなことをする資格があるのかはわからないけれど……」
そう言って私はノアに歩み寄ると、背の高いノアを屈ませて、彼女の頭を抱きしめた。
「こうやって少しくらい、甘えてもいいのよ」
抱きしめたノアから、全身の力が抜けていくのを感じる。胸に顔をうずめたノアから涙の熱が伝ってくる。
私にも妹がいたら、こんな感じだったのかしらね。
この世界の年齢では私の方がノアより年下だが、前世を合わせると私の方が歳上。姉の気分に浸っていた私は、そっとノアの頭を撫でた。
「……ヴィアお嬢様。シルヴィアお嬢様!」
「あっ、ごめんなさい」
ついぼうっとしてノアを抱き続けていた私は、慌ててノアから手を離す。ノアは解放されるとすぐに立ち上がり、少し紅潮した顔を隠すように頭を下げた。
「その……ありがとうございます」
「私はあなたの主。こんな私でよければ、またいつでも甘えていいのよ」
「はい」
出会ってからずっと張り詰めていたノアは、気が抜けたように口元を綻ばせた。
***
「ノア。この後、まだ仕事は残ってる?」
あれから掃除やシーツの取り替えなど、メイドとしての仕事をこなしたノアに、私は尋ねた。
「いえ、あたしはお嬢様の専属メイドですから、この後はお嬢様のおそばに控えさせていただきます」
「それならノア、魔法を行使するのに必要なレベル十は超えてるし、収納魔法を覚えるつもりはないかしら?」
一拍間があって、ノアは戸惑った声を上げる。
「収納魔法、ですか? 収納魔法は限られた人間にしか扱えない高度な魔法と聞いているのですが、それを何故あたしに?」
「収納魔法というのは本来、生き物を収納することはできないのだけど、アンデットなら収納できるのよ。だからノアが収納魔法を覚えれば、私が離れている時もゾンビたちを使って身を守れると思ったのよ」
「そうでしたか……承知いたしました。あたしノアは、シルヴィアお嬢様のメイドとして、ご期待に応えられるよう精進いたします」
私の説明に納得し、ノアは頷いた。
「ありがとう。それなら早速、この髪留めに手をかざしてもらえる?」
「こうでしょうか?」
私の言う通り、髪留めに手をかざしたノアの背に、左手を優しく添える。そうして私は、ノアの中に流れる魔力に収納魔法行使の準備をさせる。
「この魔力の流れ方を感じて覚えて」
「はい」
「そして目を閉じて、想像しなさい。空に穴が空いて、その中に髪留めが入るところを」
「……イメージしました」
「そうしたら今思い描いたイメージに沿って魔力を形にするのよ」
「……」
ノアは魔力を送り出そうと全身に力を入れた。
「もっと力を抜きなさい。魔力を操る時は、魔力そのものを筋肉だと思って動きを命令するのよ」
私がノアの右腕をなぞり魔力を押し出してやると、真っ暗な穴が現れ、髪留めを呑み込んで消えていった。その光景に驚き、自分の手を見つめるノアを見る。
「さあ、今の感覚を頼りにやってみなさい」
「はい」
私が置いたもう一つの髪留めに、ノアは再び手をかざす。そうして目を閉じ、魔力を高めるノア。
「いきます」
そう言ってノアが魔力を放出した直後、さっきと同じように黒い穴が出現し、髪留めは穴へと吸い込まれていった。
「本当にできた……」
「おめでとうノア! これであなたも収納魔法の使い手ね」
興奮した私が手を出すと、ノアは戸惑いながらもハイタッチを交わしてくれた。
「シルヴィアお嬢様は、剣や魔法の才能があるだけでなく、人に教える才能も兼ね備えておられるのですね」
「それはどうなのかしらね……」
私は、普通の魔術師と違って体内の魔力ではなく外部の魔力を使って魔法を行使する。だからその応用で、人の魔力を制御して魔力を動かす感覚を教えることができるというだけなのだ。
曖昧な返事をした私は、ノアにもうひとつ提案した。
「ノア、ついでに戦闘訓練もするのはどうかしら?」
「それでシルヴィアお嬢様のお役に立てるようになるのであれば、喜んで」
私も、ラドスで痛感した気配察知能力の低さを改善したいし、またお父様に頼んで私兵たちに稽古をつけてもらうのが良さそうね。
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明日も十三時頃投稿予定です。
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