29.魔獣混成奴隷
「お願いします……ルヴィア様」
私がガーランドの屋敷に戻ってすぐ、ノアは悔しそうな声を上げた。
私は氷馬を出したあと、ゾンビたちを引き離して馬車ごと王都の城門に転移した。そして私は用があると断って、ゼルたちにアードの引き渡しとギルドへの報告を任せ、すぐさまノアの元へと転移したのだ。
あれ……ノアが劣勢? ……どうやらガーランドにも、あの強化ゾンビたちを抑えられる手駒がいたようね。
「ルヴィア……? ああ、あの冒険者の小娘か。やつがおまえを救い、たぶらかしたのだな? ならばあの小娘も同罪! おい、魔獣混成奴隷の一体にあの小娘を追わせ……」
「その必要はないわ。私はここにいるもの」
私は短距離転移でガーランドの背に回り、耳元で囁く。それと同時に、ノアの顎に触れているガーランドの右腕を切り落とした。
「はあっ……?」
訳がわからないといった表情で飛び退くガーランド。だが次の瞬間、腕を切られた激痛が彼を襲った。
「ぎいぃぃああぁぁぁあぁぁぁ!」
ガーランドの拘束から解放されたノアは、切られた腕を押さえてのたうち回るガーランドの顔面を踏みつける。
「むぐうぅうぅぅ……」
私はノアと目を合わせ、
「私があの、魔獣混成奴隷? ……というのを相手するから、ノアは好きなだけガーランドに復讐してなさい」
そう言い終わると、魔獣混成奴隷たちに向かって歩き出す。そして私は剣も抜かずに、無防備な状態で氷女の横を通り過ぎようとしたその時、
「ア……アァァ……」
か細い吐息を漏らす氷女は操られているような、どこかぎこちない動きで氷の翼を広げる。すると、みるみるうちに屋敷の床や天井が凍りついてゆく。
対して私は、火属性に変換した魔力で自分とノアを覆い、氷女の氷結魔法を防いだ。
「ねぇガーランド。これの弱点、もう少し隠す努力をしなさいよ」
私は氷女を見向きもせずに歩みを進め、すれ違いざまに氷女の脇腹に触れた。すると、私が完全に氷女の横を通り過ぎた瞬間、氷女の足元からは彼女を包み溶かす炎の柱が迸る。程なくして、氷女は完全に溶けてなくなった。
「むぐぅっ!」
ノアに顔を踏まれたままのガーランドは目を見開き、慌てて声を上げようとした。だがそれはガーランドの顔を踏む力を弱めないノアによって阻まれる。
「ルヴィア様、さすがです……」
感嘆を漏らすノア。だが次の瞬間、四本腕のケンタウロスによって、私とノアの頭部を狙った光の矢が放たれた。
「……!」
ノアは光線のあまりの速さに目を見開く。けれども私は眉ひとつ動かさずに、氷の壁を自分とノアの前に一つずつ出現させて光を反射した。
「うぅぅううぅっ!」
反射された光線はケンタウロスの腕ごと、二張の弓を弾き飛ばした。腕が二本なくなった激痛に苦しむケンタウロスを対象に、ルヴィアは水属性魔法『アイシクルシャワー』を行使し、降り注ぐ氷柱によってとどめを刺した。
「ぐはっ……バカな?! ありえぬ……ありえぬぞ! わしの魔獣混成奴隷がこうもあっさりと……この小娘が! なんなのだ……貴様のその異様なまでの強さは!」
ノアの足がずれて話せるようになったガーランドは、悪魔でも見たような引き攣った顔をしていた。そして震えた声で続けた。
「だか、わしにはまだそこの蔦爪男──わしの最高傑作がまだ残っておる……」
不安げな、誰が聞いても強がりだとわかる声で最後の魔獣混成奴隷を指差すガーランド。地面に這いつくばったままの彼を、ノアは容易に踏みつけ直した。
「ヒギッ……!」
「勝手に口を開かないでください……おまえの命は今、あたしとルヴィア様の手のひらの上にあるのですから」
凍てつくような視線をガーランドに向けたノアは、それに、と付け加える。
「それに、おまえもわかっているのでしょう? あの程度の者に、ルヴィア様の相手は務まりません」
「黙れ奴隷風情が! あれはわしの最高傑作……他の魔獣混成奴隷とは訳が違う。奴はAランクの中でも実力がトップクラスの冒険者にだって引けを取らない強さを……」
目の前の出来事に、思わず言葉が詰まるガーランド。彼の目には、私の風属性魔法『ウィンドカッター』がいとも容易く魔獣混成奴隷の首をはねる瞬間が映し出されていた。
「冒険者のことはよくわかりませんが……つまりはルヴィア様がそのAランク冒険者といわれる者たちよりも遥かに上位の存在、ということのようですね」
「ヒィ……」
ノアの憎悪がこもった視線は再びガーランドへと注がれる。そして私も感情のこもらない深青色の瞳でガーランドを一瞥すると、部屋にある大きな窓の窓枠に腰掛け足を組んだ。
「ノア、あとはその男をどうするもあなたの自由よ。私は終わるまでここで待っててあげるから、何か私に手伝ってほしいことがあれば遠慮なく頼りなさいね」
月明かりが差し込む窓の中で頬杖をつく私に、ノアは頭を下げた。
「こんなあたしがこのような機会をいただいて、感謝の言葉もございません」
ノアは早速、私に右腕を切り落とされたガーランドの、右腕の切断面を鷲掴みにしてガーランドを引きずり、無駄に広い階段を降りた。
「ギィぃイィぁぁあアァァぁ!」
ガーランドが悲鳴を上げるのもお構いなしに彼を前庭まで引きずり出す。そうしてノアはガーランドを雑に放り投げると、二階の窓に腰掛ける私に声をかけた。
「ルヴィア様。この屋敷を燃やしてはいただけないでしょうか?」
ノアの言葉を聞いた途端、ガーランドの表情には確かに動揺の色が見えた。
なるほど。まずはガーランドの目の前で大事なものを壊すってことね。
ノアは大事な人を奪われたのだから、本当はガーランドの大事な人を殺したかったのかもしれないけれど……そんな人がこの男にいるはずないものね。
「わかったわ」
私はノアの頼みを快諾し、二階の窓から飛び降りる。そしてノアたちの前に立つと、人差し指を立てた。
イメージは炎の螺旋……『スパイラルフローガ』。
イメージがまとまり、私の人差し指には周囲の魔力が集中する。そして私が人差し指を振ると、屋敷は螺旋軌道を描くいくつもの業火によって引き裂かれ、一瞬で大部分が焼失した。
「わしの屋敷が……財産も奴隷も魔獣混成奴隷の研究成果も、全て……燃えた? ハ、ハハ……ハハ、ハ……」
全身の力が抜け落ちたように力無く笑うガーランドは、屋敷の残りが燃え尽きるのを呆然と見つめていた。
「いいです。とても良い絶望です! あとはあなたを殺せば、あたしの復讐は遂げられるのですね」
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