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破滅エンドの回避なんてめんどくさいっ!〜悪役令嬢の私は異世界を満喫しつつ五年の余生で国を滅ぼそうと思います!〜  作者: 冬哉


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24.ノアの復讐の始まり

「あなたたち、やりなさい」


 ノアは腕を地面と水平に伸ばす。そして支援魔法をかけられていない普通のゾンビたちに、目につく人間を襲うよう指示を出した。


「うぅぅうぅぁぁあぁぁぁ……」


 うめき声とともに歩き出すゾンビたちは一様に遅い。だが、その圧倒的な数と醜い姿に貧民たちの足が震える。そうして動きの鈍った貧民たちは次々とゾンビの群れに捕まっていく。


「ふざけるな! 俺たちが何をしたって言うんだよ……ずっとずっと領主様に搾取され続けたうえにこんな最後……あんまりだ!」


 貧民のうちの一人──中年の男が、次々とゾンビに殺され、ゾンビに変えられていく貧民の仲間たちを見て叫んだ。その男を見た途端、思わずノアは目を見開いた。


 あの男……あの時お母さんを痛めつけていた貧民の中にいた……。


「……その男の手足を押さえて」


 憎悪に歯を食いしばるノア。彼女が短剣を握りしめる手には自然と力が入る。そして、無言でゾンビたちが押さえる中年の男に近寄ると、ゆっくりと男の片目を短剣で貫いた。


「ぎっ……ぐわあぁぁあああぁぁぁぁぁ!」


 ゾンビたちに阻まれて傷を押さえることもできずに悲鳴を上げる中年の男。彼はノアの顔を呪わんばかりの眼力で見上げた。


「なぜ俺たちを襲う! 俺たちはもう十分に奪われた……なのになぜまだ奪う? 答えろこの悪魔!」


 ……なぜって? ……もう奪われたって? ふざけるな! 自分は被害者だからって何をしてもいいって言うの? あたしのお母さんを傷つけても許されるの?


 グサッ!


 ノアは力んだ右手の中でブラックダイヤモンドが埋め込まれた短剣を逆手に持ち替え、男の腹部を貫いた。


「ガハッ……グウゥッ……」


 中年の男は血を吐いてうめき声を上げる。


「この世界は……なぜこんなにも理不尽なんだ……」


 自分の運命を悲観し、全て世界が悪いと言わんばかりの態度で命を落とそうとしている男に、ノアは怒鳴った。


「ふざけないで! あなたもこうやってあたしのお母さんを殴った。被害者づらして人を傷つける、あなたの方がよっぽど悪魔じゃない!」


 その時初めて、中年の男はノアと視線を合わせた。そして、呟くように驚愕する。


「おまえは……あの時のガキなのか? ハハ……そうかそうかそう言うことか。おまえは母親をなぶり殺した俺たちと、ガーランド辺境伯様が憎いってわけか……」


「そうですよ。あたしはあなたたちが憎い! ガーランドが憎い! だから壊すんです。この狂った町ごと全て……」


「なるほどな……俺はここで死ぬらしい。だが忘れるなよ! 俺たちは天国からずっとおまえを見ている。そうしておま……えの、心を蝕み……続けて、や……」


 太い血管をいくつも貫かれていた中年の男は、そこまで言って息を引き取った。ノアは男の死体から短剣を抜き取ると、男の前を去った。


「あなたが天国になんて行けるわけないでしょう……それにあたしは、あなたみたいなクズを殺しても心は傷まないから」


 どうしてこの世界にはこんなクズしかいないの……。地下闘技場で人が殺されるところを見て楽しんだり、あたしのお母さんを傷つけたり……この貧民街には被害者の皮を被った悪魔しかしないじゃない。


 ノアはまた一人、母親をいたぶったうちの一人を見かけ、腹部に短剣を突き立てる。


「ぐがアァァッ……!」


 ガーランドも貧民も、悪いウワサを全て見て見ぬふりして自分たちだけ平穏に暮らす平民も……人を殺すことをなんとも思わないあたしも……みんな悪魔よ、狂ってる。こんな町、滅びればいい……。誰一人、生きてこの町からは逃がさない!


 ノアは貧民の腹部に突き立てた短剣を勢いよく引き抜く。そして、顔や衣服に返り血が付いたことも気にせず、ポケットから懐中時計のようなものを取り出す。


 ノアが取り出したのは索敵の魔道具だ。今は対象を人間にしているため、周囲に人間がいれば位置が表示されるのだが……。


「貧民街に生き残りはいないようですね」


 索敵用魔道具を見てそう呟くと、ノアは自分の護衛用に支援魔法をかけられた強力なゾンビを十体だけ残し、他全てのゾンビに指示を出す。大通りの方角、平民たちが暮らす区域を侵略するようにと。


***


「ノアは上手くやっているわね。運良くこんなに有能な人材を見つけられて良かった。面倒な護衛依頼だったけど……ノアと出会えたことを考えると悪くなかったわね」


 ノアが貧民街を制圧する一部始終を観ていた私は、ゾンビたちが貧民街から大通りの方へと大移動する様子を眺めて口角を上げた。


 ノアには人を殺す才能がある。だって、たとえどれだけの憎悪があろうと、あんなにもあっさりと人を刺せるのだもの。まともな人間なら、初めて人を手にかけた時には多少なりとも動揺するものなのにね……。


「ノア、あなたも私と同じで頭のネジがいくつか外れているようね。ノアとも仲良くなれそう……」


 ゾンビたちの後ろに続いて大通りへと向かっていたノアの先にふと視線を向けると、そこにはアードとゼルの姿があった。


「まずいわね……アードが死ねば私の婚約破棄──つまり破滅エンドがなくなる。そうなれば私の国を滅ぼすという計画を実行する意味がなくなってしまう」


 殺さない程度でアードに恐怖を植え付けるくらいはいい。むしろ大歓迎なのだが、ノアがアードを殺そうとした場合、私はアードを守るという不愉快な行動をとらなければならない。


「くっ……ゾンビの数が多すぎる。馬車はまだなのかユーク!」


 アードを庇いながらも着実にゾンビたちを剣で薙ぎ払うゼル。さすがはAランク冒険者といったところだが、あまりのゾンビの多さに押されて、ゼルの体力の限界は近そうだった。その時、ゼルの陰に隠れていたアードと、ゾンビ群の後方にいるノアの視線が、不意に交差した。


「なんだと……ありえない……。奴隷! なぜおまえが生きているんだ?! おまえはアースドラゴンに頭を潰されて死んだはずだ。なぜそこにいるんだ答えろ!」


 私はノアの動き次第ですぐにアードを守りに行けるよう魔法を構える。……だが、ふとあることに気づき魔法の構築をやめた。


 そういえば、ノアは自分の母親を傷つけた貧民とガーランドばかり憎んで、アードのことなんて口にすらしていなかったわね。

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