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破滅エンドの回避なんてめんどくさいっ!〜悪役令嬢の私は異世界を満喫しつつ余生で国を滅ぼそうと思います!〜  作者: 早川冬哉


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14/30

14.アードの護衛後、最悪の気分

「来たか。今日もしっかりオレを護衛しろよ」


 朝になり、私はセレナと二人でアードの護衛のため、彼の部屋を訪れた。ガーランド辺境伯領の中では、二人ずつ交代でアードの護衛につくことにしたのだ。


「ところでルヴィア。オレはまだおまえを近衛にすることを諦めていないぞ。王都に帰ったら父上に頼むつもりだ」


「はあ、そうですか。ですが私はたとえ国王陛下に命令されようとあなたの近衛になるつもりはありませんので」


「ちょっとルヴィア、もっとオブラートに包んでよ」


 ジリジリと睨み合う私とアード。一触触発の緊張が走る中、セレナが私の肩を揺すった。


「……そうね。王子様には礼儀正しくお断りさせていただかないといけなかったわね」


「フンッ……あくまでオレのものになるつもりは無いというわけか。このオレに逆らったこと、後悔してももう遅いからな! 王都に帰り次第、父上に貴様の無礼を言いつけてやる!」


「それがどうかし──」


「ルヴィア落ち着いて! ……アード殿下、そろそろ朝食をお召し上がりになってはいかがでしょう?」


 短い金髪の髪を振り乱し、私とアードを交互に見るセレナの言葉に、私はハッと我に帰った。それにアードもフンッ、と鼻を鳴らして、私から視線を逸らす。


 セレナに──精神年齢的にはかなり歳下の女の子に気を遣われた……私、何でこんなに感情的になっているんだろう?


「はぁ……ありがとうセレナ。落ち着いたわ」


「もお、頼むからおとなしくしててよぉ……わたし、ルヴィアとアード殿下が言い合ってる間ずっとハラハラしてたんだからね」


「ごめん……」


 私が顔を伏せると、視線の先に下級ポーション用の青い空き瓶が転がっていた。


 これって……確か昨日、ガーランド辺境伯がムチの傷は下級ポーションで治るって……。


 カランッ。


 一歩後退りした私の足が、別の空き瓶にぶつかった。その空き瓶が転がる先──豪華な天幕付きのベッドの奥に目をやると、そこには床を埋め尽くさんばかりに、大量の下級ポーション用空き瓶が転がっていた。


「……っ! こんなのって……」


 私の後ろからベッドの奥を覗いたセレナが息を呑む。そこには、口から泡を吹き光を映さない虚な目をしたノアが、仰向けに倒れていた。


 彼女の纏うボロは、昨日の時点ではなかった、ムチ打ちによるものと思われるほつれや破け目がいくつも見られた。


「よし、朝食を食いに行くか……おまえもさっさと来い!」


 そう言うとアードは、ベッドの上に乗っていた鎖を勢いよく引っ張る。


「カハッ……ゴボッ」


 首輪に繋がった鎖を引っ張られたノアは、命の危機を感じるような呼吸音を上げ、泡を吹いた。だが、ノアはそれでも表情を変えず、どこか遠くを見ているかのような無機質な目をしているだけだった。


***


「交代の時間だ。二人ともお疲れ様」


 アードが昼食を取り終わった頃、私とセレナはゼルたちに護衛を引き継ぎ、辺境伯邸の城下に広がるガーランド最大の町──ラドスに来ていた。


「ねえルヴィア。あのノアってお姉さん、どうにか助けられないかな……わたし、見てられないよ」


 確かに私も、ノアを可哀想だと思うし、私があんなことされたらきっと死にたいとさえ思う。


 あの黒曜石のように美しかったであろう瞳が、炭のように無機質に色褪せた様子を見るに、彼女はもう正気を保ってはいない。今はただ、一筋の希望すら持てずに、心を閉ざして苦痛から目を逸らしているのだろう。


 でも、まだ助けない。彼女の憎悪を育て、利用するためにも、まだ助けるべきじゃない。


「……私はノアを助けない」


 私の言葉に、セレナは俯くことしかできなかった。


「そう……だよね。いくらルヴィアが強いからって、王族相手じゃどうしようもないもんね……ごめんね。重い話ばっかりしちゃって」


「あんなもの見せられたら仕方ないよ」


 するとセレナは、話の流れを変えるように両手を合わせてパンッと乾いた音を立てた。


「……ねぇルヴィア。わたし、ラドスにある隠れたスイーツの名店知ってるの! 今から一緒に行かない?」


 私は前世の記憶分をカウントすると、精神年齢は大人だから大丈夫だが、セレナはまだ中学生くらいの子供だ。このくらいの年頃の女の子が、あんなものを見たら大抵はヒステリーを起こすだろう。それなのにセレナは、いつものように明るく振る舞っていた。


「セレナは強いね」


「んっ? 何か言った?」


 私は、聞き返してくるセレナの小さな手が小刻みに震えていることに気がつき、セレナの顔を見た。


 よく見ると表情がぎこちないな……セレナは、本当は平気なんかじゃないのね。強がらなくていいのに……。


「何でもない……それより、その隠れた名店ってところ、案内してくれる?」


 そう言って私は、セレナの小さな手を取り微笑んで見せた。するとセレナは驚いたように私の顔を見て、安心したように肩の力を抜いた。


「うん。甘くて美味しいスイーツ、食べに行こう!」

この話を読んでいただきありがとうございます!


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