10.護衛対象は……
「あっ、きたきた。ルヴィアさん! おはようございます」
護衛依頼の待ち合わせ場所となった王都の東門。そこには手を振るセレナをはじめとして『王の鉤爪』リーダーのゼルと魔術師のユークも待っていた。
なんで私が護衛依頼なんて……。魔獣だろうと山賊だろうと、敵が出てきたら全部私が倒そう。
そんなことを思っていると、セレナたちの後ろにある凝った装飾を施された馬車の扉が開く。そこから現れた金髪赤目の少年を見て、私は咄嗟に認識阻害の魔法を自分にかけた。
「ほう、貴様が『白銀の魔法使い』ルヴィアか。オレはおまえに興味があったんだ。長い冒険者の歴史上最速でAランクに登り詰めたという噂を聞いてな」
なんでアードがいるのよ……まさか今回の依頼主ってアードなの?
私が何も話さずに、心底嫌そうな目を向けて固まっていると、ゼルがアードにお辞儀をした。
「アード殿下。この度のご指名ありがとうございます。殿下の期待を裏切らないよう、俺たち『王の鉤爪』とルヴィアは、全力でアード殿下をお守りいたします」
「フンッ……当然だ。オレに何かあればおまえたちの首が飛ぶ。そのことを忘れるなよ」
アードは私や『王の鉤爪』に興味を示しながらも、あくまで高圧的な態度を貫いていた。
はぁ……帰りたい。
***
王都を立ってからしばらくの間、何事もなく馬車は進み、アードが乗っている馬車の後ろに続く私たち四人が乗る馬車の中では沈黙が続いていた。
暇すぎる……ガーランド辺境伯領に着く四日後までずっとこれが続くの? はぁ……帰りたい。
頬杖をついて窓の外をぼんやり眺めながら、私は物思いにふけっていた。
そうだ! 私自身の実力を伸ばす目処はついたし、この暇すぎる時間を使って滅国するために次どうするか考えよう。……やっぱり次は協力者探しかな。どれだけ力をつけようと、一人だと一度に全ての町を破壊するなんて不可能だからね。
そう思った矢先に、セレナの小さな手が、私の肩を叩いた。
「ねぇねぇルヴィアさん。ルヴィアって呼んでもいいかな? わたしもセレナでいいから」
隣に座るセレナが、眩しい眼差しを向けてくる。私はセレナの黄緑色の瞳から目を逸らした。
「いいよ。好きに呼んだら」
「うん! ありがとうルヴィア。……それでね、ゼルさんからルヴィアに話があるの」
「……話って?」
私がゼルを見ると、彼は赤い髪を整え姿勢を正した。
「ルヴィアさん。俺たちのパーティーにはあなたのように強力なボスを圧倒できる強い人が必要だ。あなたさえよければ『王の鉤爪』に加入してくれないか?」
「お断りします」
私は差し伸べられたゼルの逞しい手を取らず、突き放すように即答した。
「……っ。やはり俺たちでは釣り合わないと言うことか……」
あからさまに落ち込むゼルと、探知魔法に集中していて置物のように話さないユーク。彼らを見かねて、セレナは上目遣いに私を見た。
「ルヴィア。お願いだから少しはパーティー加入のこと、考えてみてほしいな。一人よりみんなで冒険する方がきっと楽しいよ!」
「そう言われても、私はなんの気兼ねなく自由に冒険できるソロの方がいい」
「ルヴィアがそう思うなら今はそうかもしれない。でもね、それはパーティーで冒険する楽しさを知らないからじゃないかな? だから今回の護衛依頼で、パーティーでの冒険を体験してからわたしたちのパーティーに入るか決めてほしいな」
幼い子供に言い聞かせるように話すセレナ。普段の明るく無邪気な彼女からは想像もできないその姿口調に呆気に取られた私は、自然と首を縦に振っていた。
「そうね……依頼中に考えてみるわ」
「うん! ありがとうルヴィア」
「セレナ、本当に助かった。おまえのおかげでルヴィアさん加入の希望がつながった」
前髪を摘んでは引っ張るゼルが、セレナにぎごちないお礼を言う。エヘヘ、と笑って頭をかくセレナをみて、私は自然とセレナの金色の髪を撫でていた。
普段は無邪気で明るいのに、セレナは意外としっかりものなのね。
「ゼルッ!」
「なんだ?!」
和やかな雰囲気の中、探知魔法を行使し続けていたユークが突如、張り詰めた声を上げた。
「少し先の森の中に山賊が七十人潜んでる」
「よくやったユーク。……馬車を止めてくれ!」
ゼルの声を聞いて、アードが乗る馬車と私たちが乗る馬車が止まる。
「セレナとルヴィアさんはアード殿下の護衛をしてくれ。ユークは俺とこい。山賊どもを蹴散ら……」
「山賊は私がやる。私は教わった剣術を早く試したいの!」
言うよりも早く地面を蹴って走り出した私の後をゼルが追いかける。
「まってくれルヴィアさん! 相手は人間……俺はまだ子供の君に人殺しなんかさせたくないんだ!」
今更なことね。悪者を殺すことに躊躇うようなら、私は国を滅ぼして心中しようだなんで考えていないわ。
「ヒャッッハアァァー!」
ユークが言った通り、七十人ほどの荒くれ者たちがナイフや剣を携えて森の中から一斉に飛び出す。そうして無駄のない動きで二台の馬車を囲おうと動き出したその時、
「あなたたちの相手は私。よそ見は許さないわ」
私は馬車の左右に回り込もうとするものたちの足元から岩の壁を生やした。
「うおぁぁぁあぁっ!」
ちょうど岩壁が迫り出す真上にいた十数人が空高く打ち上げられ、悲鳴をあげる。
「チイィッ! オメェら、あの銀髪のクソガキから殺れ! 俺たちに逆らったことを後悔させるぞ!」
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