94.領主邸の夜
爆音の車が広大な邸宅に乗り付けた時、邸宅の中から執事のような身なりの男が慌てて出てきた。
「ぼっちゃん、今は大事な商談の最中です。お静かにお願いします」
メイリンは運転席の窓から顔を出し、笑いながら言った。
「いーのいーの、私らその商談相手のツレみたいなもんだから。それより御曹司に一緒に飲まないかって誘われてついてきたんだけど」
御曹司は執事の手前、メイリンの言葉を否定することができなかった。
結局、御曹司、メイリン、ノアの3人は、佐々木たちの商談室から離れたゲストルームへと連れて行かれた。
豪華な部屋には、すぐに上質な酒と高級なツマミが運ばれてきた。
これにはメイリンもノアも上機嫌になった。
「ほら、お前も飲めよ」
メイリンは御曹司にグラスを押し付け、御曹司が慌てるのも気にせず、どんどん酒を飲ませた。
ノアも笑いながら、酒を飲んだ。
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佐々木とリベラは食後、邸宅の奥にある、格式高い応接室に通された。
佐々木の向かいには、惑星カースの領主が静かに座っていた。
領主は落ち着いた中にも威厳を漂わせる人物だった。
佐々木が挨拶をしようとすると、リベラが一歩前に出て、領主の顔を見据えて挨拶をした。
「領主様、お招きに預かり光栄です。こちらは、我が社の社長、佐々木です。今後、お見知りおきを」
リベラは一息つかず、核心を突きつけた。
「何か欲しい素材などがありましたら、何でもおっしゃって下さい。我々は、宇宙のどこよりも、誰よりも早く、それをご用意させて頂きます」
領主は深く頷くことも、驚くこともなく、静かに口を開いた。
「しかし、お前たちは、金を稼ぎに来たわけではないだろう」
領主は、佐々木たちの真意を最初から見抜いていた。
リベラは目を細め、率直に答えた。
「はい。その通りです。我々はあなたから『信用』を頂きたいと考えて言います。そのためなら、資源などいくらでも差し上げるつもりです」
領主はリベラの話に興味をもったように見えた。
「もう少し話せ…」
リベラは迷わず、正直に自分たちの目的を伝えた。
「我々は、史上最高のカジノステーションを建造中です。是非、あなたにそのカジノの最初のお客様になっていただきたいのです」
「カジノとは?」
領主の問いに、リベラは即座にアヴァロンのカジノをホログラムで表示した。
領主はホログラムを興味深げに眺めた。
「なかなか興味深い話だが、それ以上ではないな」
と佐々木たちの申し出を一蹴した。
リベラは表情一つ変えずに続けた。
「では、なにか困りごとはないでしょうか? 些細なことでも構いません。我々は、カジノの成功のためでしたら何でもご相談にのる所存です」
領主は顎に手を当て、リベラを見つめた。
「それはおもしろい提案だな。明日のお前たちの帰りまでに、考えてみよう」
「わかりました。それまでになければ、今回は御縁がなかったということでアあきらめます」
リベラはそう言うと、佐々木に視線で合図し、領主の前から退出した。
部屋を出ると、佐々木たちを案内した執事が駆け寄ってきた。
「あの…、お連れの方がお待ちです」
佐々木は、何のことかわからないまま執事について行くと、そこは異様な光景が広がっていた。
若い男がテーブルに突っ伏して潰れており、ノアは子どものように泣いている。
メイリンはイビキをかきながら下着姿で眠っていた。
ノアは佐々木を見つけると、泣きながら飛びついてきた。
「ささきー。さみしかったよー」
佐々木はノアの頭をよしよしとなでながら車へ向かった。
リベラは慣れた手つきで眠っているメイリンを担ぎ上げた。
その日はみんなで一緒に寝ると言うノアの願いを聞きいれ、川の字で眠ることにした。




