92.紙一重の戦争
「よっしゃー。私の勝ち!」
勝利の勝ちどきが聞こえてきたかと思うと、隣の部屋の扉が勢いよく開き、メイリンが満面の笑みで佐々木に抱きついてきた。
「ささきー。今夜は寝かせないぜー!」
リベラはそんなメイリンを一瞥した後、落ち着いた声で説明した。
「この後、社長はこの星の領主と夕食をご一緒することになりました」
メイリンは一瞬で表情を曇らせた。
「えー!せっかくじゃんけんに勝ったのにー」
リベラは続けた。
「申し訳ありませんが、お2人はホテルでお待ち下さい」
がっくりと肩を落としたメイリンを見て、ノアは少し笑ってしまった。
「しゃーねー。じゃぁちょっと飲みに行ってくるよ」
そう言うとノアの腕を引っ張り、メイリンは外に出ていった。
…かと思うと、佐々木の元に戻ってきた。
「ささきー。お願い」
そう言いながらメイリンは指を一本立てた。
「あまり遅くなっちゃダメだよ」
佐々木は端末から100万クレジットをメイリンに送った。
「わかってるって」
メイリンはそう言って佐々木の頬に顔を寄せた。
うらやましかったのか、ノアも顔を真っ赤にしながらそれをマネた。
メイリンはニヤニヤしながらノアを見た。
「ノアちゃんは、やっぱりかわいいねぇ」
「うるさい!わたしをちゃん付けで呼ぶな!」
佐々木は部屋を出ていく2人を見て、意外といいコンビなのかもしれないと思った。
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ホテルから邸宅までは車での移動となった。
車には佐々木、リベラ、秘書の順で後部座席に乗り込んだ。
車が滑らかに発進すると、秘書は佐々木に直接語りかけた。
「佐々木さん。失礼ながら、少しお伺いしてもいいでしょうか?」
そういうと、秘書は続けた。
「あの宇宙船団には、本当に10年分の資源を積んでいたのですか?」
佐々木が答えようとするのを、リベラは秘書から見えないよう静かに手で制し、リベラが答えた。
「もちろんです、我々にはその程度の資源は、いつでもご用意が可能です」
リベラは静かに、言い切った。
秘書は、再び佐々木に問いかけた。
「では、あの資源を本気でタダで提供しろと言ったら?」
佐々木が返答するより早く、リベラが間に割って入った。
「もちろん、差し上げるつもりでした」
秘書は語気を荒げた。
「そんな事をして何が目的なのですか?」
リベラは冷然と答えた。
「勘違いしてほしくないのですが、我々にとって、あの程度の量は痛くも痒くもありません」
秘書は沈黙した後、最も重要な疑問を投げかけた。
「カースは、資源運搬船に攻撃を仕掛けていたかもしれません。そうなっていたらどうするつもりでしたか?」
リベラは静かに答えた。
「その場合、カースにも少なからぬ被害が出ていたでしょうね」
リベラは淡々と続けた。
「我が社の資源運搬船は、盗難を避けるため、全てに自爆装置が設定されております。もし攻撃を仕掛けられた場合、無事な船が宇宙港めがけて落下していたかもしれません」
「そんな事をしたら船もタダでは済まないでしょう?」
「しかし、我が社の運搬船はオートパイロットで運営されており、人的被害はゼロです」
自分たちが資源取引の駆け引きの裏側で、文字通り戦争が紙一重で回避できたこと、そして自らがその引き金を引きかねなかったことを悟り、秘書は冷や汗をかいた。
車はしばらくして、広大な邸宅の前に到着した。




