88.鋼の抱擁
佐々木はメイリンに腕を引っ張られるがまま、食堂を後にし、彼女の私室へと連れて行かれた。
部屋に着くと、メイリンは佐々木をソファに座らせた。
このアークには豪華な大浴場があるにもかかわらず、メイリンの部屋にはシャワールームがある。
これは、風呂を出た後、服を持ち歩くのが面倒だから、リベラに無理を言って設置させたものだった。
メイリンは上着を脱ぎ捨てて奥のシャワールームへと入っていった。
しばらくして、シャワーを浴びてさっぱりしたメイリンが、白のスポーティな下着姿で戻ってきた。
濡れた髪をタオルで拭きながら、彼女は楽しげに提案した。
「さっさきー、せっかくの夜だし、お酒でも飲まない。私がとっておきのやつを持ち込んでるんだ」
メイリンはサイドテーブルから酒瓶を取り出し、酒盛りの用意をしながら、リベラに連絡を入れた。
数分後、リベラが軽食を乗せたトレーを持って部屋へ入ってきた。
室内の下着姿のメイリンと、ソファに座っている佐々木を見た瞬間、リベラはトレーをサイドテーブルに静かに置き、深々とお辞儀をした。
「お邪魔いたしました。それではごゆっくりお楽しみ下さい」
そう言ってリベラは音もなく部屋を退出していった。
二人は、リベラが持ってきてくれたつまみを食べながら、酒盛りを始めた。
メイリンの体つきは引き締まっており、佐々木は下着姿の彼女から目が離せなかった。
しかし、佐々木の視線は次第に、彼女の左半身の義体へと向かっていった。
左腕全体と、左胸の上部、鎖骨付近までが、なめらかで強靭な銀色の装甲に覆われている。
メイリンは佐々木の視線に気づくと、笑みを浮かべた。
「ねえ、佐々木。私のこの左半身がどうして義体になったのか、教えようか」
佐々木が静かに頷くと、メイリンはグラスの酒を一気に飲み干し、過去を語り始めた。
「私、昔はカマール星の軌道治安局の突入部隊に所属していたんだ。エリート中のエリートで、仲間は家族みたいだった」
メイリンはテーブルにグラスを置いた。
「ある時、重要拠点へ強制突入任務があってね。私は、二人の部下のすぐ後ろに続いて突入したんだ。屋内に入った瞬間、仕掛けられていた爆弾が爆発した」
彼女の声は震えていなかったが、瞳の奥に強い影が宿っていた。
「私の左半身は、爆発の直撃を食らった。でも、それ以外の部分は無事だった。なんでだと思う?」
メイリンは自嘲気味に笑った。
「部下の二人が、私の盾になってくれたんだ。彼らは…原型を留めないほど無惨な状態になったけどね。私は、ただ左半身を失っただけで済んだ。この義体は、あの場で散った2人の部下の代償なんだ」
彼女はそっと義体部分を撫でた。
「私はもう、仲間をだれ一人、失いたくないんだ」
メイリンの言葉は重く、普段の奔放な姿からは想像もできないほど脆い本音だった。
佐々木はすぐにメイリンのそばへ寄り、その体を強く抱きしめた。
「そんなことがあったんだね。僕も、メイリンが大切なものを失わないように、メイリンに協力するよ。誰も失わせない」
メイリンは佐々木の胸に顔をうずめ、しばらく静かにその温もりを受け止めていた。
夜は更け、酒瓶は空になった。
翌朝。
佐々木が目を覚ますと、隣にはいつもの明るい笑顔のメイリンがいた。
彼は、二人が裸でシーツに包まれていることに気づいた。
昨夜の重い話は嘘のように、彼女はいつものメイリンに戻っていた。
二人は身支度を整え、連れ立って食堂に入ると、リベラとアテネが朝食をとっていた。
リベラが何か尋ねる前に、メイリンは満面の笑みで先手を打った。
「いやー、昨日は盛り上がっちゃってさー。私がもうムリって言っても佐々木が全然ゆるしてくれなくてさー」
メイリンが、昨日の詳細を無邪気に話し始めようとするのを見て、佐々木は顔面蒼白になった。
「ま、まって、メイリン。そんなの説明しなくていいから」
「いやいや、佐々木。われわれの間にかくしごとはなしだよ」
なぜかノリノリのアテネと、それに同意するリベラ。
メイリンはこんな楽しい朝が続くといいと心から感じていた。
いつもお話を見ていただいている皆さん。ありがとうございます。
最近皆さんからいただく、評価のうれしさがわかってきました。
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