86.カジノの具体化
佐々木とノアが幸せな夜を過ごした翌日。
ノアの招集により、ギルがアークへやってきた。
食堂で、カジノ運営会議が開かれ、佐々木、リベラ、メイリン、アテネ、そしてギルが出席した。
ノアは落ち着いた声で、ギルに用意した提案を一気に説明し始めた。
「カジノの収益性を追求するなら、大口の顧客となるハイローラー以上を狙う必要があります。しかし、アークのカジノの目的は資源隠蔽であり、収益性は二の次です。であれば、スーパーハイローラーは無理に集めません。」
ギルはノアの提案にそれでと、先をうながした。
「むしろ、社長が持つような信頼できるネットワーク、すなわちミッドローラーからハイローラークラスの方々にターゲットを絞るべきだと考えます。また、ミッドローラーより下の層は、母数が多く、セキュリティ上のリスクが増えるため、ターゲットから外したいと考えます」
ノアは続けて、アヴァロンの利用について述べた。
「お客様がお越しの際、彼らがアヴァロンで扱う資源の売買や、機密性の高い交渉ができるような、カジノとは分離した高度なホスピタリティラウンジを設けたいと考えます。移動要塞の、排他的な空間を提供することで、商談を成立させる際のステータスと絶対的な安全を保証します。すなわち、世界最高峰の密性の高い交渉の場を提供することができます」
ノアが説明を終えると、ギルは腕を組み直して、ノアに笑顔を向けた。
「なかなかに面白い提案だな。特に、ミッドローラー以下を排除し、カジノの質を保つという点には非常に賛成だ。ラウンジの件もなかなかに面白い。特に世界最高峰というのがいい」
しかし、とそこでギルの笑顔は消えた。
「アヴァロンには潤沢な資源と能力がある。これが意味するのは、我々がスーパーハイローラーの要求にも完璧に対応できる、数少ないカジノになるということだ。私は金儲けが好きだ。なぜ私がこのプロジェクトにお前を参加させたのかを理解していないのか?コイツらが収益を求めないからといって、なぜその優位性を手放す?そのクラスの顧客が落とす資金やネームバリューは、何物にも代えがたい。潜在的なアドバンテージをどう活かすのか、深く考え直せ」
ノアはギルの指摘に深く頷いた。
「ごもっともです、社長。私は商人が求める付加価値、そしてここの能力を最大限に利用する戦略を考え直します」
リベラは佐々木に向かって微笑んだ。
「佐々木様。こんな優秀なノアさんがハーレム入りしてくれたのは、本当に幸運ですね」
リベラの言葉に、ギルは驚きの表情を隠せなかった。
彼は、この美人の部下が佐々木になびいた事実に信じられないという顔をした。
ギルは佐々木に視線を向けた後、ノアの顔を静かに見据えた。
「ノア。一つ忠告しておく。お前がここに来たのは、仕事のためだ。だが、プロであるお前が、個人的な感情で判断を鈍らせ、企業の利益を損なう提案をするのは、私にとっては面白くない」
ノアは一瞬息を飲んだが、表情は変えなかった。
「…社長のお考えは理解しております。必ず結果を出します」
リベラはギルを完全に無視し、穏やかな笑みを崩さずにノアに語りかけた。
「ノアさん。何かつらい事があればいつでも言ってくださいね。私たちはいつでもノアさんを正式に雇用する準備がありますので」
リベラの予期せぬ囲い込みの提案に、ギルは慌てて態度を軟化させた。
「し、叱責したのは、お前の能力を高く評価しているからこそだ。…しかし、コイツのどこにそんな魅力があるんだ?」
急にみなの注目が集まり、恥ずかしそうにする佐々木。
ノアはギルに対し、真剣な目で反論した。
「失礼ですよ、社長。佐々木は、とても素敵な人です」
ノアは佐々木を庇うように、少し怒った表情を見せた。
メイリンもノアに同意てウンウンと頷いた。
「まぁ、いいだろう。次の提案に期待しているぞ」
そう言い残し、ギルは古い馴染みたちが待つ隣のテーブルへ移動していった。
アテネはすぐさま、ノアに近よった。
「ノアちゃんの提案。なかなか良かったよ。私の領分とも重なるし、ターゲット層の検討を一緒に進めよう」
ちゃん呼びに少し驚いたノアとアテネは食堂を出て行った。
佐々木がぼんやりしていると、隣にいたメイリンが佐々木の肩に手を回した。
「さっさきー。やっと私の番が回ってきたんだよね?」
佐々木は、メイリンの強引さに抗えず、そのまま彼女に引きずられるようにして食堂を後にした。




