85.安泰な夜
アークの大浴場にある豪華なサウナ室。
佐々木とノアは水着姿で、並んで座っていた。
汗をかき、しばらくの沈黙の後、2人はサウナ室を出て、隣接するプールに飛び込んだ。
キンと冷たい水が肌を包み、全身の毛細血管が開き始める。
プールの縁に頭をもたせかけ、ぼんやりと天井を見つめるノアの表情は、心からリラックスしているようだった。
「ふぅ」
ノアは息を吐き出し、ぽつりと口を開いた。
「ねえ、佐々木。こうして2人きりでサウナに入るのが、戻ってきて一番最初にやりたかったことだったんだ」
佐々木はノアの真剣な眼差しに一瞬戸惑い、熱を持った顔をさらに赤くした。
「え、あ、そうなんだ。そりゃ、光栄だ」
ノアは長身で大人びた美人だが、今佐々木の前で見せる表情は、まるで小さな子供のようだった。
彼女は佐々木のドギマギした様子を見て、くすっと笑い、少し照れくさそうに言った。
「一緒にサウナに入るなんて、私、初めてなんだ。ちょっと、緊張してる」
「そ、そうか」
佐々木は、どう反応していいかわからず、ただ小さく頷いた。
プールサイドで、二人の間に特別な心地よい時間が流れていた。
「まだ、サウナとプールを繰り返すつもりだけど、その間に話をしてくれない?」
ノアは佐々木と話をしたいことがたくさんあった。
佐々木が普段どんなことを考えているのか、何が好きで、何が嫌いなのかを夢中で尋ねた。
佐々木もノアのために、今回の旅の話を聞かせた。
オリーヴを探しにカーマルドに行った時のこと、ゼウスを探しにヴァリアスへ行った時のことを詳しく話した。
佐々木が宇宙ステーションで拘束されそうになった時の話は、ノアも思わず手に汗を握り、話の先を急がせた。
サウナと水風呂を2周し、ととのった後、二人は佐々木の部屋でリベラが食堂から持ってきてくれた食事をとりながら、さらに会話を続けた。
ノアは佐々木が話す何気ない冗談や、過去の出来事を聞きながら、笑いのツボが驚くほど似ていることに気づいた。
そして、ギルのもとで危険な世界を生きてきた自分と、佐々木の全く違う生き方の話が、かえって新鮮で面白かった。
ノアがこれまで付き合ってきた相手は、強引で、自信家で、自己中心的なタイプが多かった。
しかし、佐々木はただただ優しく、その飾らない感じが心地よかった。
ノアは、佐々木と一緒にいる時間はまだまだ短かったが、佐々木といることが楽しくて仕方がなかった。
普段のしっかりとした様子からは想像できないほど、佐々木との時間を無邪気に楽しんでいた。
佐々木が自分に心を許してくれていることが分かり、これからずっと一緒にいられることに、深い幸せを感じていた。
すっかり話し疲れたところで、二人は眠ることにした。
広々とした佐々木のベッドの中、ノアは裸で小さく丸まって眠っていた。
その表情は安らかで、まるで何もかもから解放されたようだった。
佐々木も横になり、静かにノアの艶やかな長い髪を優しく撫でた。
ふいにノアの口元が緩み、幸せそうな笑みを浮かべた。
「ささきー……」
小さな寝言が、2人きりの静かな部屋に響いた。




