76.ゼウスの参加プロジェクト
「…そうですね。私達2人でかかればできる気がします」
ゼロは頷き、リベラと共にテーブルの下で素早く端末から接続を確立した。
レストラン内のテレビ画面では、ヴァリアス・グランプリの高速スピーダーたちがデブリフィールドの最終コーナーを抜ける場面が映し出されていた。
佐々木が最後のステーキを口に入れた瞬間、レースのゴール判定が響いた。
メイリンは興奮した面持ちで自分の端末を確認した。
すぐにその顔が失望に変わる。
「くそっ、外れた!」
メイリンは舌打ちをした。佐々木は無関心な様子で、最後の肉を飲み込んだ。
「佐々木ぃー、どうなってんだよ〜」
メイリンは不満そうに言った。
テレビ画面の優勝マシンがハイライトされた。
今回のレースは大荒れとなり、レース会場の盛り上がりは凄まじかった。
それもそのはずで、優勝したのは、誰もが予想していなかったマシンだった。
つまり、一番オッズの高かったマシンだった。
メイリンの顔はさらに歪んだ。
「なんで?私が買ったのが、一番オッズが高かったのに?」
リベラは何か違和感に気がついた。
「ちなみにメイリンさん。その大穴にいくらかけました?」
「ん?50万クレジットだけど?」
リベラは冷静に事実を指摘した。
「あなたが50万クレジットもの大金を投じた瞬間、そのマシンのオッズは急激に下がりました。つまり、あなたがオッズを下げたんです。欲張り過ぎましたね」
メイリンは頭を抱え、佐々木はそれを見て薄くわらった。
「ま、まぁいいじゃない。僕と一緒ならお金なくてもこまらないでしょ?」
メイリンは顔を上げ、佐々木を睨んだ。
「そりゃそうだけどさぁ」
佐々木の隣にいたリベラが、静かにメイリンに話しかけた。
「メイリンさんには博才はなさそうですね。賭けるなら、アヴァロンだけにしておいた方がいいですね」
リベラからの忠告に、メイリンは不満げに鼻を鳴らした。
「そんなの楽しくないじゃんか。自分の金を賭けるからヒリヒリして面白いんであってさ」
リベラは、メイリンに追加で質問した。
「ちなみに、今賭けたお金の出処は?」
メイリンは一瞬口ごもった。
「…佐々木にもらった調査料」
「それで、ヒリヒリできるなら大丈夫ですよ」
リベラはそろそろ話を戻すことにした。
「佐々木様、ゼウスさんの情報を見つけました。探査船でコロニーを離れたのはある実験のためのようです」
佐々木が、リベラに真剣な顔で目を合わせた。
「ゼウスさんがが参加していたプロジェクトは、人間の意識をデータとして完全に複製する『ゴースト・スキャン』の研究です。この研究は人体に有害とされており、コロニーの倫理・安全規制により禁止されています。どうやら、この実験のために、探査船で秘密裏にコロニー外の宇宙ステーションへ向かったようです」




