74.辺境の天才
14章のあらすじ
登場人物:佐々木啓介(30歳、男性)、リベラ(船のAI、女性)、メイリン(なんでも屋、29歳、女性)、リリィ(整備士、17歳、女性)、オリーヴ(75歳、女性)
佐々木たちはレーザー砲設計者オリーヴを追って惑星カーマルドへ。ギルドの指名依頼は拒否されるが、メイリンの情報をもとに修理工場でオリーヴを発見。最初は否定する彼女を、リリィが著書の証拠と技術的熱意で説得し、アヴァロンへの協力を得る。オリーヴは、アヴァロンが本来移動要塞であり、レーザー砲の反作用を制御するスラスターとエンジン開発の専門家が不可欠だと指摘。佐々木たちは次の仲間を探すため、オリーヴに専門家の心当たりを尋ねる。
オリーヴは、かつてエンジン開発の頂点にいた技術者「ゼウス」の名を告げた。
今、ゼウスはコロニーのヴァリアスに移り住んでいるという。
佐々木がオリーヴに出発をうながしたが、オリーヴはそれを拒否した。
「私は準備がある。ここから、まだ一週間は動けそうにない」
それを聞いたリリィは、オリーヴの準備の手伝いと、拠点への案内を自ら申し出た。
オリーヴと佐々木はリリィの申し出を笑顔で許可した。
「すまないが、ゼウスの説得はあんたたちだけでたのむよ」
佐々木とリベラ、メイリンの3人でゼウスの説得を試みることにした。
3人は、さっそくルインキーパーに乗り込み、ヴァリスへと向かった。
ヴァリアスは、かつて独立した技術研究コロニーとして栄え、多くの天才が集った場所だった。
現在も、その技術力と自由な自治のおかげで、富と才能が極端に集中し、独特の格差と競争意識が渦巻く自治領となっている。
カーマルドからヴァリスへの航行は3日間のかなり長いものとなった。
メイリンは簡易シャワーの後、いつもの下着姿で、ブリッジの佐々木のもとへやってきた。
「佐々木ぃー。そういやお礼がまだだったよな」
事情を察したのか、リベラはいつの間にかいなくなっていた。
「ちょ、ちょっとリベラ。こんなとこで…」
「まぁ、まぁ、いいじゃねぇか。減るもんじゃなし」
…
数日後、ルインキーパーは目的のヴァリアスに到着した。
リベラは簡素なコロニーの外壁を見て言った。
「ゼウスさんはアヴァロンの陥落後、ここに移り住んだんですね」
到着した3人を待っていたのは、静寂と無関心、そして年季の入った構造物の隙間に、貧富の差が垣間見えるコロニー内部の街並みだった。
ここへ来てみたものの、手がかりは皆無だった。
「どうやら、普通のやり方じゃ無理みたいだな」
メイリンは、指を一本立ててながら佐々木に視線を向けた。
「佐々木、ちょっと聞き込みをしてくるよ」
佐々木は、メイリンの嗅覚を信じ、いつものように100万クレジットを無言で渡した。
「メイリン…」
メイリンは佐々木の唇を塞いだ。
「あぶないことはしないでだろ?わかってるよ」
メイリンはそう言って笑顔で、人混みに消えていった。
メイリンが去った後、リベラは提案した。
「佐々木様、まずは今日のホテルを確保しましょう」
2人は古い街並みを歩き始めた。
そのとき、佐々木の横を、一体のアンドロイドが通り過ぎようとして、佐々木にぶつかってしまった。
アンドロイドは機械とは思えないほど深く、震える声で謝罪した。
そのまま、逃げ去ろうとした瞬間、リベラは呼び止めた。
「待ってください。これを落としたましたよ」
それはキーカードだった。
リベラはアンドロイドの挙動に強烈な既視感を覚えていた。
アンドロイドがキーカードを受け取る際、リベラはアンドロイドに通信を送った。
アンドロイドは驚いた顔でリベラを見たが、小さく頷いた。
「佐々木様、すこし3人でお話をしたいのですが、いいでしょうか?」
リベラは佐々木の許可をもらい、近くのカフェに入ることにした。
リベラはアンドロイドに、核心を突く質問をした。
「もしかして、あなたのご主人様は長期間、不在なのではないかしら?」
アンドロイドは悲しげに頷いた。
「はい。重要なプロジェクトに関わり、もう何日も家に帰っておらず、私も困っています」
「正確にはどれくらいの期間?」
「…1035日になります」
佐々木は緊張しながら、主人の名前を尋ねた。
「ご主人様の名はゼウス、と申します」
詳しく話を聞いてみると、どうやらあのゼウスで間違いなさそうだった。
リベラは、佐々木の強運を再び信じる気になった。
しかし、このアンドロイドはただのお手伝いロボットではない。
最新鋭の技術が惜しみなく注ぎ込まれた精緻なフレーム。
そして、その極めて人間的な感情表現と、主人の命令なしにこれだけ動けるAI。
おそらく、リベラ同様、統制プログラムはハッキング済だろう。
会話の途中、リベラの端末にメイリンから連絡が入った。
「リベラ。ゼウスに関する情報を見つけたぞ。すぐ合流しよう」
リベラはアンドロイドに微笑みかけた。
「詳しい話は、メイリンさんの持ってきた情報と合わせて、相談しましょう」
アンドロイドにおすすめの店を聞き、皆でそこへ向かうことにした。




