72.見果てぬ夢
「お願いします、オリーヴ先生!どうか、どうか私に力を貸してください!」
リリィは土下座をしたまま、絞り出すような声で言った。
リリィの悲痛な様子に、オリーヴは作業を止めて、深い溜息をついた。
「顔を上げな。私は忙しい。手短に済ませな」
リリィは真剣な眼差しでオリーヴに向き直った。
「私には大切な仲間がいます。その仲間は、今、懸命に宇宙船を建造しています。私は、仲間たちの財産を守るために強力なレーザー砲を搭載したいと考えています。しかし、実用可能な兵器として完成させるための技術が足りません。どうか、力を貸していただきたいのです」
オリーヴは鼻で笑い、顎の皺を深くした。
「ふん。甘ったれるんじゃないよ、小娘。技術が足りない?足りないなら、失敗を繰り返してでも必死で技術を身につければいい」
彼女は佐々木たちを睨んだ。
「あたしだってそうだ。死ぬまで必死で取り組んでも、実現できるかどうか分からない夢がある。そのために、この年になっても汗まみれで船をいじっているんだ。ただの宇宙船に付けるレーザー砲ぐらい、自分でなんとかしな!」
厳しい言葉に、佐々木たちは肩を落とし、諦めて引き返そうとした。
その時、これまで静かに見守っていたリベラが、ふとオリーヴに問いかけた。
「オリーヴさん。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか」
オリーヴは渋々、仕事に戻ろうとした手を止めた。
「あなたが、死ぬまでに実現したい夢とは、一体どんなものなのですか?」
オリーヴは餞別代わりにと、静かに語り始めた。
「私は、かつて巨大な宇宙要塞の陥落を目の当たりにした。その原因は、私が作ったレーザー砲が、連続使用に耐えられなかったからさ」
彼女は自分の船に搭載されている特注のレーザー砲を見つめた。
「私は、その問題を解決する手段を見つけた。あの巨大なレーザー砲を、撃ち続けられるようにする技術をね。死ぬまでに、どうしてもそれを完成させたいんだ」
リベラはそっと頷き、穏やかな口調で言った。
「それは、アードさんと同じ夢ですね」
オリーヴの表情が一変した。
「アンタたち、アードを知っているのか?」
佐々木は深々と頭を下げた。
「はい。実は、今、建造している宇宙船というのは、アヴァロンです」
佐々木がそう言った瞬間、すべてがクリアになった。
レーザー砲についてまんざら知らない訳ではなさそうな娘が、自分に技術支援を求める違和感の理由。
リリィは、オリーヴの夢と同じ、アヴァロン用の超大型のレーザー砲の実現を求めていたのだ。
オリーヴは、工具を放り投げ、佐々木たちに詰め寄った。
その顔は、先ほどまでの頑固な老婆ではなく、夢を追う技術者の顔だった。
「そのプロジェクトに、あたしを参加させてくれ!」
今度は、オリーヴの方が佐々木たちに頼み込んでいた。




