71.修理工場の老婆
4人は、メイリンが掴んだ情報をもとに、街外れの宇宙船修理工場へ向かった。
工場は巨大なドーム状の施設で、金属の焼ける匂いと溶接機の火花が飛び交う、埃っぽい空間だった。
工場の一角には、古びた小型船が格納されており、その下で1人の小柄な人物がエンジンのオーバーホール作業に熱中していた。
作業着に身を包んでいるため体格はわかりにくいが、その顔は皺深く、確かに70代は優に超えた老婆に見えた。
佐々木は老婆の元へ近づき、質問したいた。
「すみません、お邪魔いたします。オリーヴさんでしょうか?」
老婆は工具を叩く手を止めず、顔を上げることもなく低い声で答えた。
「…違うよ」
佐々木は少し落胆しながらも、形式的に名前を尋ねた。
「失礼いたしました。一応お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ヴァンスだ」
老婆はぶっきらぼうに答えた。
「そうですか。ご迷惑をおかけしました」
佐々木は3人に目配せし、引き返そうとした。
「待ってください、佐々木さん!」
リリィが声を上げた。
「あなたがオリーヴさんで間違いないはずです!」
「ほう?」
老婆は片眉を上げた。
「なぜだい?私がその誰かだと断定できる根拠を聞かせてもらおうか」
リリィは停泊中の船に近づき、搭載されているレーザー砲を指差した。
「あのレーザー砲は、船のサイズから考えても明らかに大型の特注品です。私はこんな構造、今まで一度も見たことがありません」
彼女はさらに、レーザー砲の射出口の先端に体を乗り出して指差した。
「そして、このレンズですが、これもすごい加工技術による一枚レンズが使われています。コストと製造難易度からこのサイズの実用化の話は聞いたことがありません。こんなものを実用化したのは、オリーヴさんしかいない!」
老婆はしばらく黙ってリリィを見つめた。
やがて、老婆は鼻で笑った。
「なかなか勉強しているようだね。だが、それだけでは私がオリーヴだと断定できないだろう?」
その瞬間、リリィは自分の端末を引き出し、ホログラムを射出した。
空間に浮かび上がったのは、リリィが持つレーザー関係の専門書だった。
その表紙裏の、著者が記されている部分が拡大表示した。
『著者名:オリーヴ・ヴァンス』
名前の上には、年を取ると眼の前の女性のようになる事が容易に想像できる写真が貼ってあった。
「私は、あなたの本をずっと読んできました。いつか何処かで会えたらとその顔を覚えていました。」
リリィは自分の確信の根拠を語った。
老婆はホログラムに目をやった後、大きくため息をついた。
「まったく、あたしの前職を知るヤツがいるなんてね。こんな本書くんじゃなかったよ。たしかに、私がオリーヴさ。アンタたちがギルドに指名依頼を出した人物かい?」
佐々木は居住まいを正し、真剣な表情でオリーヴに向き直った。
「はい。レーザー砲の作成を、あなたに手伝っていただきたいのです」
オリーヴは鼻で笑い、再び手に工具を取った。
「そんなものは知らんね。この船のオーバーホールで手一杯だ。悪いが、忙しいから無理だよ」
彼女は、佐々木たちを無視するように作業に戻ろうとした。
その時、リリィがバッとその場に膝をついた。
リリィは作業場の煤で汚れた床に両手をつき、深々と頭を下げた。
彼女の小さな体が震えている。
「お願いします、オリーヴ先生!どうか、どうか私に力を貸してください!」
リリィは土下座をしたまま、絞り出すような声で言った。




