7.戸籍の復活
佐々木は、役所のカウンターに座っていた。
向かいにいる役人は、彼の提出した書類と、隣に立つアンドロイドのリベラを交互に見ている。
「それでは佐々木さん、改めてお伺いします。この100年間、あなたはどこで何をされていたのですか?」
役人の質問に、佐々木は脳裏に浮かぶリベラと打ち合わせた言葉を思い出し、簡潔に答えた。
「僕はアビス・ディスカバリー号に乗船してすぐコールドスリープカプセルに入りました。そのため、それ以降の蘇生されるまでの記憶がありません」
役人は、佐々木の説明に不審な表情を浮かべた。
しかし、佐々木の手首に巻かれた嘘発見器の針は微動だにしなかった。
「…それだけですか? その後、どのようにしてここにたどり着いたのですか?」
そこで、役人の前にリベラが一歩進み出た。
「蘇生にいたるお話は、私が佐々木様の代理で説明させていただきます。ルインキーパーの航行記録と私の記憶は完全に同期しています」
リベラは流れるように語り始めた。
「3年前、探査船ルインキーパーは、アビス・ディスカバリー号が事故に遭ったエリアで素材の回収作業を行っていました。その最中に、コールドスリープカプセルを発見しました。しかし、当時のルインキーパーの資材だけでは、蘇生は不可能でした。1年前、ルインキーパーのキャプテンは死亡したのですが、私は遺言でカプセルの蘇生を依頼されておりました。この度、必要な素材が揃ったため、蘇生を実行いたしました。そこから佐々木様をキャプテンとし、戸籍を復活させたいと言われたためこの惑星にやってまいりました」
役人は戸惑いながらも、納得したように頷いた。
「はい、すべての検査をクリアしました。佐々木様の戸籍を復活させます」
役人の言葉に、佐々木は安堵のため息をついた。
100年の空白を経て、彼は再び社会の一員として認められたのだ。
ただし、年齢の欄は130歳となってしまったが。
戸籍の復活手続きを終え、佐々木は金融機関へ向かった。
100年前の自分の口座に、わずかでも資産が残っていることを期待していた。
しかし、表示された残高は、たったの数千クレジットだった。
「リベラ、これじゃあ何もできないよ」
佐々木は愕然とした。
死亡したことで給与も退職金も支払われないまま、豪華客船を失った会社はすでに潰れていたのだ。
「佐々木様。ご安心ください」
アンドロイドのリベラは、佐々木の手を優しく握った。
その指には、白く輝く小さな金属の指輪がはめられていた。
「こんなこともあろうかと、アークから、希少金属を持ってきました。これを換金すれば、当面の生活費には困りません」
佐々木は、その金属の塊を呆然と見つめた。
リベラは、戸籍復活という目的だけでなく、その後の生活まで見越して準備していたのだ。
佐々木は、再びリベラに救われた。
彼女の献身的なサポートに、彼はただ感謝するしかなかった。




