62.となりで眠る野獣
「えーと。何で、こうなったんだっけ?」
佐々木はアークのベッドで、ぼんやりと隣で眠る女性を見つめていた。
そこには、裸で大の字になって、腹をポリポリをかきながら眠るメイリンがいた。
佐々木は、昨日の食堂の後のことを思い出していた。
…
食堂での進捗報告の後、セレネは名残惜しそうに佐々木を見つめた。
「仕事のキリが悪くて、今日は作業場へ戻ります…」
そう言い残し、セレネは真っ先に食堂を後にした。
メイリンは、アンドロイドに促され、自分の新しい部屋へと向かって行った。
アードやリーナ、リリィら他の面々も、それぞれの研究や休息のために自分の部屋へと戻っていった。
佐々木は心身の疲労を感じていた。
カマール星での極限状態からの帰還、そして長時間の報告会。
今日は、大浴場でさっぱりしてぐっすり寝ようと決めた。
佐々木が大浴場に向かおうとした時、リベラが話しだした。
「佐々木様、入浴のお供をしたいのですが、申し訳ありません。まだこのボディは、防水処理が完全に完了しておりません。本日はお一人で入浴願います」
「そんなの気にしなくていいよ、リベラ。いつもありがとう」
佐々木は一人で豪華な大浴場に入り、熱い湯船に身を沈めた。
その快適さに、一日の緊張が解けていき、あの感情が湧き上がってきた。
「なんだか、さみしいなぁ…」
その時、浴場の扉が開く音がした。
「うわ、すっげぇ!これがアークの風呂か!でけぇプールじゃねーか!」
現れたのは、タオルを肩にかけただけの裸のメイリンだった。
佐々木は慌てて上半身を湯船から出し、目元を覆った。
「メ、メイリンさん!ごめんなさい!すぐに出ていきますから」
佐々木が慌てて湯船から上がり、出ようとすると、メイリンがかけ湯をしながらそれを引き止めた。
「まぁ、待て待て、何焦ってんだよ?」
メイリンはそのまま湯船に浸かり、佐々木の隣に座った。
「リベラがな。自分の代わりに佐々木の体を洗えってさ」
リベラから、まさかのサービス代行を命じられていたことを知り、佐々木は顔が熱くなった。
「リベラが?そ、そんな、ご迷惑を…」
「いーのいーの。ほら、背中向けろ。疲れ取ってやるよ」
メイリンに言われるがまま、佐々木は羞恥に耐えながら背中を向けた。
…
その後、どうやって自分の寝室へ辿り着いたのか、佐々木はよく覚えていなかった。
佐々木は、目の前の光景を見つめた。
メイリンは気持ちよさそうに、穏やかな寝息を立てている。
メイリンは、カマール星で命を懸けて自分たちを助けてくれた。
今ではかけがえのない仲間だ。
佐々木は、もはや抵抗することを諦めた。
自分の力ではどうすることもできないこの状況も、今は感謝すべき結果だと思えた。
「…まぁ、いいか」
佐々木は、安堵したような微笑みを浮かべると、再びシーツの中に潜り込み、メイリンの横で二度寝をはじめた。




