40.新しい仲間と未来の別れ
もう少し詳しい話を聞きたいというアテナの言葉を受け、佐々木たちは彼女を部屋へ招待した。
リベラが部屋の中央に巨大なホログラムを展開した。
それは、宇宙に構築されつつある要塞、アヴァロンのワイヤーフレーム構造体だった。
「こちらが私たちが現在、建造中の巨大施設の基本構造です」
リベラが落ち着いた声で説明を始めた。
「主たる目的は、プライベートな自立型コロニーとしての機能確立です。現在、簡易エネルギー炉を稼働させ、基礎骨格の構築を進めている段階です」
リベラは続けて、アヴァロンの主要な設備について説明した。
「エネルギー炉については、セレネ博士が開発中の最新型炉の搭載を予定しており、莫大な電力供給が見込めます。また、船体を維持するためのナノマシン管理システムや、緊急時の防御設備も高度なものが組み込まれる予定です」
リベラは、レーザー砲やミサイルシステムなどの具体的な攻防設備については言及を避け、あくまで緊急時の防御設備という曖昧な説明に留めた。
一通り説明を聞いたアテナは、構造体の規模と、セレネの最新炉が組み込まれるという事実に目を見張った。
セレネはホログラムの構造体の空虚な内部を指し示した。
「今見ていただいた通り、今は骨組みだけの空っぽの構造体ですが、この中に住む人たちが心から喜び、安らげる施設を作りたい。アミューズメント、庭園、居住区のデザイン。このクルーズ船であなたが実現している快適さの技術を、アヴァロンで実現してほしいんです」
3人の熱意と、プロジェクトの途方もないスケールに、アテナの表情は徐々に変わっていった。
彼女は静かに、自身の心情を話し始めた。
「みなさん。正直に申しますと、私はこの客船の構築で建築師としての仕事には満足してしまっています。そろそろ引退してもいいかと考えていたところでした」
アテナは、ホログラムのアヴァロンを見つめた。
「しかし、こんな途方もない規模の施設をゼロから造るというプロジェクトは、私にとって最後の、そして最大の挑戦になり得ます。…正直、心動かされています」
そして、アテナは一つだけ条件を提示した。
「私にご協力させていただくにあたり、一つだけお願いがあります。私はもう故郷にも戻るつもりもありません。このアヴァロン計画が完了した後も、私が設計したその施設、その最高の生活空間に、そのまま滞在させていただくことは可能でしょうか?私が設計した施設を、私自身が使い続ける。それが私の引退後の望みです」
佐々木は、アテナの提案を聞き終わると、満面の笑みで答えた。
「もちろんです!アヴァロンはあなた自身の家になる。あなたが喜んで住み続けたいと思える空間を、どうか造り上げてください!」
こうして、運命的な出会いによって、アヴァロン計画に豪華客船の専属建築師、アテナが加わることになった。
アテナとの交渉を終え、佐々木とセレネは同じベッドに横になっていた。
豪華客船の窓からは、無数の星がきらめく宇宙が広がっている。
佐々木はなかなか寝付けずにいた。
佐々木はそっと身を起こした時、セレネが小さく動いた。
「佐々木さん、どうしたの?眠れないの?」
セレネは、少しぼんやりとした様子で佐々木を見上げた。
佐々木は優しくセレネの髪を撫でながら、正直な気持ちを打ち明けた。
「うん、少しね。最高の人たちが集まってくれて、アヴァロンはきっと最高の要塞になる。でも、それが完成したら、みんないなくなっちゃうんじゃないかって…。そう思うと、なんだか急に、悲しくなっちゃって」
セレネは佐々木の話を聞き終わると、そっと佐々木を抱きしめた。
セレネの温かいぬくもりが佐々木の不安を包み込む。
「大丈夫よ、佐々木さん」
セレネは安心させるように、佐々木の胸に顔をうずめた。
「少なくとも私は。佐々木さんが、私をそばに置いてくれるなら、私はずっと佐々木さんと一緒にいたいと思っているの。だから、安心して」
セレネの控えめながらも真っ直ぐな言葉に、佐々木の胸は温かくなった。
宇宙の片隅の豪華客船で、二人は静かに眠りについた。




