37.そろった才能
7章のあらすじ
登場人物:佐々木啓介(30歳、男性)、リベラ(船のAI、女性)、リリィ(整備士、17歳、女性)、アード(設計士、80歳、男性)、セレネ(エンジニア、28歳、女性)、リーナ(ロボット工学者、22歳、女性、アードの孫娘)
老設計士アードと孫娘の天才エンジニアのリーナを仲間に加えた佐々木たちは、要塞の巨大な資材量を確認し、本格始動へ。しかし、リベラはエネルギー炉の開発を最優先課題と指摘。その直後、佐々木が保護した小型犬の飼い主が、探していたエネルギー炉の天才セレネと判明。セレネは組織に設計図を狙われ追われていた。リベラは佐々木の幸運体質を説き、セレネをスカウト。追跡艦は無人船の自爆で撃破され、セレネはアークの安全と佐々木の隣での安らぎを見つけ、計画への参加を決意する。
セレネが正式にメンバーとなってからの3日間、アークは安息に包まれていた。
温浴施設、食堂、そして最低限の個室しかないアークには佐々木、リベラ、セレネの3人だけ。
だが、追われる生活から解放されたセレネはこの穏やかな時間を楽しんだ。
佐々木は、持ち前の人の良さでセレネとの距離を急速に縮めていった。
セレネの愛犬だと判明した小型犬コメットが、この親密な時間をさらに和ませた。
佐々木は食堂でコメットとじゃれあい、三人で温浴施設で一日の疲れを癒した。
セレネはリベラが佐々木に対して示す無償の献身、その目的が100年間の孤独を埋めることにあるのを理解し始めていた。
ある夜、佐々木とセレネが食堂で映画を見終えた後、セレネは隣の佐々木を肘でつつき、リベラの口癖を真似て囁いた。
「この映画、楽しかったけど、満足した? 佐々木様、さみしさはやわらぎました?」
「や、やめてよ、セレネ! リベラの真似をしないでよ!」
佐々木は顔を真っ赤にして慌てた。
「セレネさんの冗談は、佐々木様の感情を活発にしています」
セレネは面白そうに笑った。
セレネにとって、このアークは心の安息の地となっていた。
もちろん、セレネはエンジニアとしてアードのアヴァロン改良設計図の検討も怠らなかった。
「すごいわ、この設計図。私のエネルギー炉が使えそうだし。アークにある素材で十分賄えそうだし」
セレネは高揚感を隠せずにリベラと佐々木に伝えた。
しかし、その計算の過程でセレネは一つの疑問に突き当たった。
旧アヴァロンのエネルギー炉のパワーが、過剰すぎるという点だ。
「リベラ、もしかしたら、この余剰パワーは巨大なシールドバリアのためではないかしら?」
「その可能性は極めて高いです」
とリベラもセレネの意見に同意した。
旧アヴァロンには他にも自分たちが知らない機能があった可能性がある。
リベラはすぐに、ナノマシン群を旧アヴァロンの事故現場宙域へ派遣し、利用可能な残骸や情報がないか探索させることにした。
「佐々木様の幸運体質に、この際期待しましょう」
リベラは科学的ではない方向に期待したが、セレネもその意見に同意した。
「そうね、運も実力のうちよ」
ナノマシンの探索に微かな期待を寄せつつ、アヴァロン計画の本格始動に向けて、最後の安息の時を過ごした。
そして合流日。
リベラと佐々木は、探査船ルインキーパーで惑星ゼニスの宇宙港へ向かった。
セレネは、以前追跡艦に狙われた経緯があるため、佐々木の判断でアークにコメットと共に留まることになった。
宇宙港に到着すると、アード、リーナ、リリィの3三人は予想通り大荷物を抱えて現れた。
リリィは工具箱と設計データ、リーナはロボット工学の機材、アードは古い設計図のロールなど、その荷物の量と熱意に佐々木は苦笑いする。
今回は不審船に追われることもなく、ルインキーパーはアークへの帰還を果たした。
アークの食堂に全員が集合し、セレネとアード、リリィ、リーナは初めて顔を合わせた。
リリィとリーナがセレネの経歴に興奮する中、アードがセレネに尋ねた。
「あんたほどの技術者が、何故こんな辺境で要塞造りに参加するんだ?」
セレネはコメットを抱き寄せ、佐々木を一瞥した。
「シンプルよ。このアークと、そしてキャプテンである佐々木に守られることを、私は望んでいるからよ」
佐々木は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
そのセレネの宣言を聞いたアードは、リーナに向かって小声で囁いた。
「リーナよ。お前も技術だけでなく、佐々木に積極的にアプローチしたほうがいいんじゃないか?」
「おじいちゃん、何言ってるの!?」
リーナは顔を真っ赤にして声を上げた。




