28.整備士の貞操
リベラに勧められ、リリィはその夜、久々に自宅で1人で過ごした。
自宅でリリィは、アークに持ち込むための私物や、整備工具などを、スーツケースにまとめた。
翌朝。
リリィは約束の時間に、佐々木とリベラが宿泊するホテルへ迎えに行った。
ロビーからリベラに連絡を取ると、すぐに返信が来た。
ー申し訳ありません。佐々木様の朝の準備に時間がかかっております。
本日の予定を遅らせ、昼頃に改めてお越し下さい。ー
リリィは「朝の準備」が何のことか、まったく理解できなかった。
佐々木は、アークでは朝食を食べるだけだったが、地上では何かもっと複雑な儀式でもやっているのだろうか。
リリィはリベラの依頼に素直に従い、荷物をホテルに預け、時間をつぶすために、ジャンク・ポットへと向かった。
今日も店にはザックがいた。
リリィは、佐々木の「朝の準備」の話をザックに話した。
「地上に降りてくると、何か準備することがあるんでしょうかね?」
ザックは、リリィの質問の裏にある、世間知らずさが気になった。
「お前、まだ佐々木とそういう関係になってないよな?」
リリィはきょとんとした。
「そういう関係って?」
ザックは真剣な顔に戻り、リリィの貞操を心配した。
「カラダの関係だよ。無理やりいやらしいことに誘われてないか?」
リリィは、昨日の朝の佐々木の強い拒否を思い出していた。
「いえ…佐々木さんはすごく紳士的です。私がイヤだと少しでも示したら、すぐに止めてくれますし、それどころか、いつも謝ってくれます。リベラさんにも、私が嫌がることは絶対にしないと約束してくれました」
ザックはリリィの意外な答えに驚いた。
「どういうことだ?リベラがお前がイヤがることをしたり、佐々木がお前に謝らないといけないようなことをしてるってのか?」
ザックの鋭い返しに、リリィは真っ赤になり下を向いた。
「そんな事は…されてません」
蚊の泣くような小さな声でリリィは嘘をつくのが精一杯だった。
「…ならいいが。」
ザックはどこまでいっても他人である事を自覚している。
リリィの反応は少し気にはなったが、彼女が本当に困っている訳ではなさそうなので、納得することにした。
その時、リリィの携帯端末にリベラから連絡が入った。
「リリィさん、お待たせいたしました。佐々木様の準備が完了しました。すぐにホテルへお越しください」
リリィはザックに別れを告げ、ホテルへ戻った。
佐々木がいつも以上に疲れていることとが少しに気になったが、それ以外は特に変わった様子はなかった。
リリィは、朝の準備とは、トレーニング的なことかと、想像した。
それから3人そろって、リノベーションに必要な設計図やモジュールを取り扱う施設の見学に向かった。




