23.あなたの価値は?
「...では、私は、何をすればいいのでしょうか?」
リリィは、再びリベラに問いかけた。
リベラは少し微笑みながら語りはじめた。
「リリィさん。思い出してください。私はアークの仕事は二つあると説明しましたね。船外の作業と船内の作業があると」
リリィは頷いた。
「船外探査については、先ほどお話した通り、ナノマシンと運搬船の運用が人力を凌駕しています。しかし、船内の作業、特に佐々木様の快適な生活環境を構築するという、この船の最優先事項に関しては、まだまだシステムだけでは対応しきれない領域があるのです」
リベラは佐々木の方に視線を移し、再び口を開いた。
「具体的には、佐々木様のさびしさをまぎらわせて…」
「ストップ!ストップ、リベラ!」
佐々木が顔を真っ赤にして、リベラの言葉を遮った。
「リベラ、それは言わなくていい!そういう話は、ちょっと、その、デリケートな問題だから!」
リベラは少し不満そうな表情を浮かべた。
アンドロイドの身体を得てから、彼女の表情は人間味を帯びてきている。
「なぜですか、佐々木様。佐々木様のさびしさをまぎらわすことは、私の最重要ミッションの一つです。それをリリィさんにお願いしようとしているのに、なぜ止めるのですか?もう、さびしさをまぎらわす必要はないのですか?」
リベラは真剣だった。
佐々木は顔の熱を抑えようと手のひらを頬に当てながら、リリィの目を避けて説明した。
「ち、違うんだ、リベラ。そ、そんなこと、人にお金を払って、仕事として頼むものじゃないだろ!俺の、個人的な……えーっと、プライベートな問題! そういうのは、自力で、そのうちなんとかするから!」
リリィは二人の深刻なやり取りについていけていなかった。
しかし、とにかく借金返済のチャンスであることは理解している。
「あの、よく分かりませんが、1,500万クレジットもいただけるのですから、私は何でもします!何でもお申し付けください!」
リリィは前のめりになってそう告げた。
リベラはリリィの言葉に、嬉しそうに目を輝かせた。
「佐々木様、ご覧なさい。リリィさんがこれほどやる気になっているのです。彼女の技術と献身性を信頼して、お願いしてみてもよろしいのではありませんか?」
佐々木は眉間にシワを寄せたが、リリィの純粋な意欲と、リベラの強引な合理性に押し切られそうになる。
佐々木は居心地悪そうに立ち上がった。
「わかった。リリィさん、少し、こっちへ来て」
佐々木はリリィを、食堂の隅に連れて行き声を潜めて、「さびしさをまぎらわす」ことの具体的な内容を、丁寧に説明した。
リリィの顔は、佐々木の説明が進むにつれてみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
数分後、リリィは一言も発さず、佐々木から急いで離れ、元いた場所へ戻ってきた。
彼女はリベラと佐々木に向かい、深々と頭を下げた。
「すみません。他のお仕事でお願いします!」
リリィの顔はまだ赤いままで、その声は上ずっていた。
佐々木はホッとしたように肩をすくめ、リベラは再び不満げな表情を浮かべたのだった。
佐々木は、頬の熱を冷ましながら、新たな提案をした。
「で、ですよね。なら、こういうのはどうでしょう?」
彼は周囲を見渡す。
「この船は、人が住む場所として考えると、まだまだ未完成です」
佐々木はリリィを見た。
「リベラは俺の好みを把握しているけれど、そもそも僕がよくわかっていないことは、理解しようがない。そこで、リリィさんの整備士としての知識と感性を使って、アークのリノベーション計画を立ててくれませんか?」
話の方向性が代わり、リリィも佐々木の話に興味津々だ。
「設計図さえ用意してくれれば、リベラがナノマシンに依頼して、数時間でリノベーションを完了させられる。リリィさんには、生活空間の設計をお願いしたいんですが」
リリィは、それならばと顔を輝かせた。
「設計ですか!それならデザインの勉強もしていましたから、私にも出来そうです!」
リベラは合理的な提案に反対はできない。彼女は腕を組み、わずかに唇を尖らせた。
「...佐々木様がそうおっしゃるなら、採用しましょう。ただし、1500万クレジットの作業になりますので、船内のリノベーションだけでなく、外装や兵装にもご協力をお願いします」
リベラは最後に佐々木に向かって語りだした。
「ですが、佐々木様。さみしさをまぎらわすという最重要ミッションの達成が、遠のいたことはご認識ください」
佐々木は咳払いを一つし、リベラを無視した。
リリィは、ようやく自分の技術が活かせる仕事を見つけ、安堵の息を漏らした。




