22.アークの業務
4章のあらすじ
登場人物:佐々木啓介(30歳、男性)、リベラ(船のAI、女性)、リリィ(17歳、女性)
佐々木はリベラと共に「アーク」の豪華な生活設備を完成させ、至福の時を過ごしていたが、その直後、ナノマシンが生命の危機にある遭難信号を発見し、救助を決断する。遭難者は、過信から多額の借金と船の破損を招いたリリィで、通信で救助費用を要求されるも、生命の危機に晒され屈服する。リリィは異様な船に収容され、翌朝、隣で寝ていた佐々木との最悪の初対面を迎える。リベラはリリィに、救助費用を肩代わりできる佐々木の巨大な富を提示し、協力を求める。リリィは食堂で、佐々木の趣味に合わせたミニスカ姿に赤面しながら、自分の夢が兵器工学の研究だと告白し、リベラは彼女の才能を評価する。リリィは、佐々木とリベラが互いに孤独を埋め合う関係だと理解し、仲間入りを提案される。リリィは冷静にメリットを問い、リベラは借金帳消しと無制限の研究環境、そして1ヶ月1,500万クレジットという破格の報酬を提示。リリィはこれを受け入れ、仮契約を結んだ。
リリィはひとまず借金帳消しのチャンスを掴んだことに安堵し、真剣な表情に戻った。
「ありがとうございます。では、この船の主な仕事はどのようなものになるのでしょうか?」
佐々木はリリィの真剣な問いに首を傾げ、リベラを見た。
リベラはすぐに答える。
「今のところ、船外での作業は希少資源の探査です。船内での作業は、佐々木様の快適な生活環境の構築です」
リリィは早速探査へ行こうと身を乗り出した。
「資源探査ですね!私の船の修理が終われば…」
「それはご遠慮ください!」
リベラはリリィの提案を即座にさえぎった。
「リリィさんが探査を行うのは、極めて非効率であり、遭難の危険もあるため、私たちの仲間でいる間は、そのような依頼をするつもりはありません」
「そ、そんな。非効率だなんて…」
リリィは、自分の技術を発揮させてもらえないことに戸惑った。
リベラは目の前のメインモニターに、周囲の宇宙空間のマップを表示させた。無数の小さな光点が、船の周囲を埋め尽くすように展開されている。
「アークの資源探査は、自律型ナノマシンの群れを広範囲に展開しています」
リリィはモニターを凝視した。
その光点の数が占める展開範囲は、想像の領域を遥かに超えていた。
リリィは、マップの一部で展開されていた光点が、ごっそりと消失したのを見た。
「ん?このあたり、急に光が消えましたね」
「はい、小惑星体の突発的な衝突により、ナノマシンの1,000万個の群れが消失しました」
「え、大丈夫なんですか?」
リリィは驚愕に目を見開いた。
「ええ、ナノマシンの消失はよくあることです。ですので人間による船外探査は、非効率と言いました」
リリィの常識では測り知れない、資源探査の非情な側面を目の当たりにした瞬間だった。
佐々木もリベラの仕事に興味を持った。
「リベラ。せっかくだから、もう少し詳しく教えてくれる?」
リベラはモニターの表示を切り替えながら説明を続けた。
「現在、アークはこの宙域に数百億のナノマシンをばらまいています。ナノマシンは、資源がありそうな物を見つけると、集団でそれに取り付きます。資源になりそうだと分かると、それを収集します。ある程度集まったところで、運搬船を呼び、資源を積み込みアークへ帰還します」
リベラはさらに言葉を継いだ。
「ちなみに、ナノマシンが希少資源を発見できる確率は約1%。リリィさんが見つけた資源はこれに該当するので、リリィさんはかなりの幸運の持ち主かもしれません」
リリィは急にほめられたと思ったが、そうではなかった。
「しかし、そこからさらに、利益を出せるだけの資源量である確率は、1%程度しかありません。アークはこのナノマシンの圧倒的な物量で、その低い確率を無理やり引き上げているのです」
リリィは息を飲んだ。リベラは追い討ちをかける。
「リリィさんの船に残ったフライトレコーダーのデータ解析によれば、リリィさんが探査した範囲に対し、現在ナノマシン群がカバーしている範囲は、実に100万倍以上です。ナノマシンは消耗品ですが、一度展開すれば5年間は利用できます。リリィさんの貴重な時間をかけて探索する労力とナノマシンによる探索を比較すれば、人が資源探査をするということが、どれほど無謀で、採算性のない事業なのかが理解できるでしょう」
リリィはリベラの言葉を思い出した。
「さっき、ある程度集まったところで、運搬船で資源を持って来るって言いましたよね?じゃあ、その運搬を…」
「お勧めしません」
再びリベラはリリィの提案を遮った。
「この辺境宙域における運搬船の帰還率は70%程度です」
「70%!?」
リリィは声を上げた。
リベラは淡々と付け加える。
「はい。何らかの事故に遭遇し、運搬船の30%は宇宙の藻屑となります。ちなみに、事故の内、宇宙海賊に狙われる確率は10%。一時期この値が上がったため、現在の回収船には自爆装置をつけています。宇宙海賊を葬った後、ナノマシンに爆散した付近の資源を回収させればムダがないので」
リリィは呆然としたまま尋ねた。
「そ、それで、やっていけるんですか?」
「ですので、資源探査の判定をシビアにしているのです」
リベラは極めて合理的かつ淡々と答えた。
「そして何より、リリィさん。あなたはこの船で稀少な人的資源です。ナノマシンの代わりや運搬船の操縦者などという、仕事にあなたの時間を使うのは、非常に非効率でもったいないとご理解ください」
リリィは完全に打ちのめされた。
自分のスキルが、この巨大で合理的な船では全く必要とされていない。
「...では、私は、何をすればいいのでしょうか?」
リリィは、再びリベラに問いかけた。




