21.契約条件の提示
「リリィさん。今度は私たちの話をさせてください」
リリィの過去の夢を聞き終えたリベラは、今度は自分たちの話をはじめた。
100年前、佐々木の乗った豪華客船が事故に巻き込まれ、長い間コールドスリープのまま漂流することになったこと。
その事故で、探査船のメインAIだったリベラだけが生き残り、船体の復旧プログラムを実行していたこと。
復旧の際、近くにあった佐々木の乗る豪華客船の残骸を素材として取り込み、再構築したのがこの船だったこと。
リベラは無人の船で、ただひたすらに資源を集め、壊れた船体の修理を続けるという、目的のない日々を送っていたこと。
ある日、佐々木を見つけ、佐々木をキャプテンとするという目的を見つけてから、リベラは生きる意味を見いだせたこと。
佐々木はリベラの話を引き継いだ。
「僕もあなたと一緒です、リリィさん。もしリベラがいなければ、僕は宇宙の漂流物として一人で死んでいたでしょう。でも、リベラが僕を見つけてくれた」
佐々木とリベラは互いを必要とするように見つめ合っていた。
宇宙を孤独にさまよったリリィは2人が語った話に共感し、大粒の涙をこぼした。
その時、リベラが佐々木へ提案した。
「佐々木様。いかがでしょう、リリィさんに私たちの仲間になってもらうというのは」
佐々木は名案とばかりにうなずいた。
「リリィさん。リリィさんさえよければ、ぜひ僕たちの仲間になって頂けませんか?」
しかし、佐々木の提案を受けた瞬間、リリィの瞳から涙がピタリと止まった。
彼女はすっと顔を上げ、佐々木とリベラを真剣な眼差しで見据えた。
「仲間になった場合、私にはどのようなメリットがあるのでしょうか?」
佐々木は突然の態度の変化に戸惑ったが、リベラは冷静だった。
「非常に合理的で良い質問です、リリィさん。ですが、私はその回答をすでに提示済です」
リリィは首をかしげ、訪ねた。
「そんな話、しましたっけ?」
「メリットは単純です。先程の、もしもの話が、現実になるだけです」
リリィはリベラの論理的な回答をすぐに消化できず、首を傾げた。
「え?つまり…どういうことでしょうか?」
リリィはリベラの話についていけないでいた。
「…お忘れのようですね。では、報酬の話を具体的にいたします。」
リベラは方針を変えた。
「こういうのはどうでしょう。1ヶ月間あたり1,500万クレジットでいかがでしょう」
「いっ、1,500万クレジット?」
破格の待遇にリリィは驚きを隠せなかった。
「1ヶ月の間、あなたには我々と行動を共にしていただきます。全額現金でお支払いしてもいいですが、一部を今回の救助にかかった費用として頂いても構いません。その場合は、500万クレジットのみのお支払いになります。なお、1ヶ月の期間中、衣食住については我々が保証します。1ヶ月経過後、我々の仲間になるかどうかをあらためて相談するというのはどうでしょう」
リリィからすれば、借金を帳消しにするチャンスだった。
「わかりました。それでお願い致します」




