20.コスプレ整備士の夢
リベラに促され、リリィは食堂へと続く通路を歩いていた。
「リベラさん。本当にこの服しかないのですか?」
リリィはリベラが真面目な顔で持ってきた服に納得がいっていない。
「申し訳ありません。リリィさんの着ていた服は現在清掃中です。今しばらくはこちらの衣装でガマンして下さい。まぁ裸で船内をうろついていただいても問題はありませんが」
「いえ、こちらでけっこうです」
大きな借りがあり、リリィはリベラからの無理難題を拒めないでいた。
リベラはドアを開け、先に佐々木に声をかけた。
「佐々木様、リリィさんをお連れしました」
しかし、リリィはなかなか食堂の中へ入ってこない。
食堂のテーブルでコーヒーを飲んでいた佐々木は、立ち上がりリリィを迎え入れようとした。
「あ、リリィさん。先程は失礼しました。改めまして…」
自己紹介をしようとした佐々木は固まってしまった。
「あ、あの、その衣装は…?」
その沈黙を破ったのはリベラだった。
「さすが、佐々木様。リリィさんがお召しのこの服は、先の惑星にあるエキゾチックウェア専門の店で購入したものです。佐々木様がお手持ちの動画で、高頻度でこの種の衣装が登場していたため、リリィさんの衣類として最適と判断しました」
佐々木はリベラの丁寧な説明を聞き、言葉を失った。
リリィが今身につけているのは、ワンピースだった。
少しばかり、普通と違っている点は生地の面積が少なすぎるが。
佐々木は顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。
リリィは、この服が佐々木の趣味と聞き、恐怖が一つ増えた。
「こういうのがお好きなんですね…」
気まずい空気が流れる中、リベラは話題を変えた。
「リリィさん。あなたは、なぜあのような危険な宙域で遭難していたのか、理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」
リリィは服の事はいったん忘れることにして、これまでの経緯を語りだした。
宇宙整備士の学校を卒業し、自分の技術を過信して多額の借金をして小型船を購入したこと。
一攫千金を狙って誰も行かない辺境での希少資源探査に手を出し、見つけはしたが、事故を起こしてしまったこと。
赤面していた佐々木は、リベラの方を見た。
リベラも、黙って佐々木を見返すしか出来なかった。
リベラは静かに尋ねた。
「リリィさん。あなたはそこまで危険を冒して、大金を貯めて、最終的に何がしたかったのですか?」
リリィは口ごもった。
「えっと……とりあえず、お金持ちにになりたかったといいますか」
リベラは言葉を遮るように質問を変えた。
「では、質問を変えます。もし今、借金が一切ない状態に戻れたとして、さらに一生をかけても使い切れないようなお金を手に入れたとしたら、あなたが心からやりたいことは何ですか?」
リリィは少し考え、純粋な表情になった。
「もし、そうなら、学生の時にやっていた、好きな研究をまたできれば、それが一番幸せかもしれません」
リリィの返答に佐々木も興味を持って尋ねた。
「研究って、どんな研究をされていたんですか?」
リリィは少し誇らしげに答えた。
「実は私、大学では兵器工学を専攻していて。主に、高出力ミサイルの誘導システムとか、対艦用レーザーの収束技術を研究していました」
リリィの返答を聞いた佐々木は単純に尊敬の声を上げた。
しかし、リベラの反応は、少し違っていた。
「なるほど……。佐々木様、リリィさんを救えたのは、わたしたちにとって、予想外の幸福をもたらすかもしれません」




