158.不足の代償
ギルバートとミラは頭から黒い頭巾を被らされ、後ろ手に縛られていた。
視界を奪われたまま、車に揺られる時間が続く。
ギルバートは、内心でマズい予感を覚えていた。
この場を仕切っている連中の顔に、心当たりが全くない。
ドレッドノートは、どうやら末端の汚れ仕事は「アウトソーシング」しているようだ。
たぶん佐々木のことも知らないだろう。
ミラに伝えた「佐々木のハーレムメンバーだと言え」という手札は、相手が話の通じる連中であってこそ意味を成す。
末端の荒くれ者にそれを言ったところで、無意味どころか逆効果になりかねないと判断したギルバートは、別の方法を取ることにした。
車がどこかの倉庫に到着し、頭巾が剥ぎ取られた。
ギルバートは硬い椅子に縛り付けられ、ミラは少し離れた場所にある汚いベッドの上に縛られたまま横たわっていた。
あまりの恐怖で小刻みに震えている彼女の姿は、痛ましかった。
男たちは、ギルバートを冷たい目で見下ろしながら吐き捨てた。
「男は痛めつけて、女の方は好きにしろ」
その中の一番偉そうな男が、ギルバートの前に立った。
「お前らは他人のシマを荒らしすぎた。それなりの制裁を受けてもらう必要がある」
男が拳を振り上げた瞬間、ギルバートが静かな声で言った。
「ドレッドノートさんに確認を入れた方がいいんじゃないのか?」
ドレッドノート。
その名が出た瞬間、男たちの動きが止まった。
周囲の男たちも顔を見合わせ、ミラに襲いかかろうとしていた者たち怯んだ。
「すっ、少し確認を入れるから待ってろ」
男は動揺を隠せないまま、端末を取り出して連絡を取り始めた。
静まり返った倉庫に、端末の向こうからかすかな怒鳴り声が響く。
それから数分後、戻ってきた男の顔は土気色に変わっていた。
「二人を、ドレッドノートさんの所へお連れいたします」
⋯
2人はドレッドノートのビル前で降ろされた。
ギルバートに対し、先程までの高圧的な態度は消え、男は深々と頭を下げた。
「この度は誠に失礼いたしました。ドレッドノートさんには、何もなかったとお伝えいただけないでしょうか⋯」
非常に下手に出る男に対し、ギルバートは笑顔で答えた。
「いいさ。お前さんとは、仲良くやれそうな気がするよ」
誘拐メンバーの車が逃げるように走り去る。
その背中に、ミラが怒りをぶつけた。
「ギルバートさんが許しても、私は許しませんからね! あんな怖い思いさせておいて⋯」
「ミラ。もしお前が今日のことをそのまま佐々木たちに伝えたら、報復としてセレノグラフィアの市街地に爆弾が落ちてくるぞ」
ミラの顔が引きつる。
「うっ⋯嘘ばっかり!脅したってダメですから」
「嘘かどうかは、これから会うやつに聞けばいい」
ギルバートは不敵な笑みを浮かべ、ドレッドノートの本拠地へと足を踏み入れた。




