156.救いの目録
セレノグラフィアの造船ドックを包んでいた熱気は、焦燥感に変わっていた。
佐々木の豪華客船の建造は、資源の枯渇という問題に直面していた。
事態を悪化させていたのは、ギルの不在による調達の変化だった。
ギルが死亡したという報を受け、彼の残した商事部門である「ギル商会」は、後継の幹部たちによって「レガリス・トレーディング」へと改名された。
ギルが存命だった頃は、アヴァロンとの独自ルートを駆使して特別価格で資源を融通していた。
しかし、ギルというパイプが消失したことで、現幹部たちはアヴァロンとの直接交渉ができなくなった。
ギルはあの不思議な連中のアンドロイドを、暴走AIアンドロイドと説明していた。
気に入らない事があれば、爆弾を積んだ船で突っ込んで来るとか。
結果、資源調達を正規ルートに頼らざるを得ず、仕入れ価格が高騰した。
佐々木の船を完成させたいという遺志はあっても、組織を維持するためには、正規の価格以上に値下げができず、以前とは比較にならない高額で取引する形になっていた。
ガルドはネクサス・システムズのCTOであるカインに相談したが、返答は厳しいものだった。
「ガルドさん、レガリス・トレーディングを責めるわけにもいきません。彼らも今のルートでは赤字を出してまで値下げはできない。また、今のネクサスに、その差額を補填する余裕はありません」
一度はアテナが、自分が一人でアヴァロンへ戻り交渉をしようとも考えた。
しかし、安全にアヴァロンまでたどり着ける保証がないことから、その案は却下された。
資源が完全に底を突き、操業が止まる寸前でガルドの倉庫を訪れる人たちがいた。
⋯
「まいど。なにかお困りのようですね?」
軽薄な口調で馴れ馴れしく話しかける男の横には、実の娘のミラがいた。
「ミラ! お前どうやってココに⋯いや、それよりもアヴァロンの人たちと連絡が取りたいんだ。どうにかできないか?」
ガルドは男を無視して、必死に娘に詰め寄った。
「だろうとおもったよ、ガルドさん。俺がアヴァロンから資源を持ってきたんだけど、ネクサス・システムズで買い取ってほしいんだ」
そう言ってガルドに見せる目録には、まさに今、ガルドが必要としている資源が載っていた。
「そうか、あんたアヴァロンの人なのか?」
ガルドが驚いて尋ねる。
「ああ、最近仲間になったギルバートってもんだ。よろしく頼む」
若者はそう名乗り、手を差し出した。
⋯
ガルドは二人を連れて、ネクサス・システムズへと歩き出した。
「ところでミラ。お前、その男とはどういう関係なんだ?」
道中、ガルドはギルバートに聞こえないよう娘に顔を寄せ、小声で質問した。
「えっ? ⋯師匠と弟子って感じかな。今は商売を教えてもらってるの」
ミラが少し照れくさそうに答えると、ギルバートが横から叩き込んでる最中だと付け加えた。
「⋯ミラ、困ったことがあればいつでも相談するんだぞ!」
ガルドは娘を心配して重ねて確認する。
「大丈夫よ。ギルバートさんは口は悪いけど、すごく頼りになるんだから。お父さんも見ていればわかるわ」
そんな話をしながら、3人はネクサス・システムズの本社ビルへ入っていった。




