155.ギルバートの初仕事
第26章のあらすじ
登場人物:佐々木(30歳、男性)、リベラ(AI、女性)、ギル(130歳、商人、男性)、リラ(30歳、女性)、ガルド(元造船所社長、53、男性)、アテネ(32歳、建築師、女性)、ゼウス(技術者、ゴースト)、ギルバート(30代の義体となったギル、男性)
ギルはセレノグラフィアへ戻り、ガルドとアテネたちに引退を表明し、後事を託した。その帰り道、ガルドはアテネに求婚し、二人は共に歩むことを誓い合う。次に、拠点レガリスに戻ったギルは、全資産を部下へ分け与えて組織の清算を図るが、連行される最中に凶弾に倒れ、公式には死亡が報じられた。しかし、ギルはこうなる事を予想し、リベラに「ゴースト・スキャン」による意識移植計画を依頼していた。アヴァロンへ密かに運ばれたギルの意識は、ゼウスの協力により30代の最新義体へと移植され、「ギルバート」として若々しく蘇る。真相を知った妻リラは、隠し事をしていた夫への腹いせに佐々木の「ハーレム入り」を宣言するなどの大騒動を起こすが、最後は土下座する夫を許した。無一文から再出発を誓うギルバートは、佐々木と最強のパートナーとして固い握手を交わし、アヴァロンの経営に本格的に参画することが決まった。
ギルバートは、さっそく佐々木とリベラに商売の提案を持ちかけた。
「俺に策がある。アヴァロンに眠ってる膨大な資源を市場に流して、運営資金に変換してやるよ」
自信たっぷりに笑うギルバートは、リベラにいくつかの資源品目を指定した。
さらに、足となる「ルインキーパー」と、資材運搬船を1隻融通してほしいと付け加えた。
「今度は私もついて行くよ」
横からリラが身を乗り出した。
レガリスでの騒動で肝を冷やしたリラにとって、もうギルバートを一人で外に出すつもりはなかった。
ギルバートは若返った顔を少し綻ばせ、リラの肩を抱いた。
「そうだな。今後、子供ができれば常にどちらかがアヴァロンに居ようと思ってる。お前をハネムーンにも連れていけてなかったし、ちょうどいい機会かもな」
2人のやり取りを見守っていたノアが、意を決したようにギルバートへ歩み寄った。
「社長、お願いがあるのですが」
「おいおい、ノア先輩。あんたの社長はもう死んだろう。俺はアヴァロンの新米商人のギルバートだよ」
ギルバートはわざとらしく肩をすくめて、『社長』呼びを訂正させた。
「失礼しました、ギルバートさん。実は、最近ガルドさんの娘さんのミラさんに経理を教えているんですが、ギルバートさんが正式にメンバーに加わるのであれば、私よりも適任かと思いまして…」
ノアの言葉に、ギルバートは興味深げに目を細めた。
「ほう、あのガルドの娘か。いいぜ、俺の商売のやり方を叩き込んでやるのも悪くない」
ノアに背中を押されるようにして、ミラが緊張した面持ちでギルバートの前に進み出た。
「ミラです。よろしくお願いします!」
ギルバートは不敵な笑みを浮かべ、彼女を品定めするように見つめた。
「いいか、俺の指導は厳しいぞ! 泣き言は受け付けねえ。しっかりついてこいよ!」
「はい!」
ミラの威勢のいい返事に、ギルバートは満足げに頷いた。
「さて、最初の目的地はセレノグラフィアだ。俺たちが到着する頃には、あそこでは面白いことが起こっているはずだぜ」
ギルバートが予言者のような口ぶりで言うと、ミラはふと故郷に残した父を思い出した。
「お父さん、私がいなくて寂しがってるかなぁ…」
「ん?いや、たぶん寂しがってねえぞ」
ギルバートの即答に、ミラは目を丸くした。
「え? なんでですか?」
「俺がセレノグラフィアを発つ直前、アイツはアテネと結婚したんだ。今ごろは新婚生活に夢中だろうよ」
「「「「えっ!?」」」」
その場にいた全員が声を上げた。
誰もその初耳の事実に追いつけない。
「ありゃ? お前ら聞いてなかったのか?」
ギルバートは軽い調子で首を傾げる。
佐々木は少し驚いたものの、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「そうですか。アテネさん、幸せになってくれるといいなぁ」
一週間後、義体の動作が完全に安定した出発の日。
ギルバート、リラ、そしてミラの3人は、新たな販路を切り拓くべくルインキーパーへ乗り込もうとしていた。
「ギルバート、これを受け取ってくれ」
佐々木が手渡したのは、丁寧に包まれた小さな箱だった。
中身を見た瞬間、ギルバートの目が見開かれた。
それは100年ほど昔に一世を風靡したアニメ『ユニバーサル・ブレイブ』、通称『ユニブレ』の主人公のライバル、ガイアのフィギュアだった。
「コックピットにでも、飾っておいてよ」
佐々木の言葉に、ギルバートは胸を熱くした。
レガリスの件ですべてのコレクションを失った彼にとって、これ以上ない贈り物だった。
「…ああ。最高だ。ありがたく受け取っておくぜ」
「行ってくるぜ。達者でな」
「気をつけて。いってらっしゃい」
ギルバートと佐々木は拳を合わせ、男同士の挨拶を交わした。
ハッチが閉まり、ルインキーパーがアヴァロンのドックを静かに離脱する。
ギルバートの、商売人としての第二の人生が今、宇宙の闇へと滑り出した。




