153.一世一代の大博打
セレノグラフィアからレガリスへ戻る前、ギルはリベラに連絡を入れていた。
おそらく自分はレガリスで恨みを買いすぎている。
そのままでは許してもらえないだろう。
そう悟ったギルは、以前ゼウスに相談していた事を実行する事にした。
場合によっては頭を撃ち抜かれ、即死するかもしれないが、相手は俺が苦しむ様を少しでも見たいだろうと、ギルは一か八かの賭けに出ることにした。
リベラはネットワークに潜り、暗殺計画に関する情報を取得して、その日程を特定した。
リベラは無人の救急車を宇宙港に呼び寄せると、あらかじめルインキーパーからマシンを救急車の中に積み込んでおいた。
本部には「誤報であった」と戻るふりをして、予定時刻の頃にギルの店の周りを走らせて待機させた。
そして銃撃が発生した瞬間、リベラは救急本部の通信回線を経由し、付近を走行中だったその救急車に直行を命じる公式指令を流して、店の前に付けさせた。あまりにも早い救急車の到着は、そのためだった。
ギルは救急車の中でリベラの顔を見ようとしたが、そこで意識を失った。
ここからは時間との勝負である。リベラは『ゴースト・スキャン』マシンを起動し、ギルの意識をデータコピーすることに成功した。
リベラは近くの病院でギルを当直の医者に預けた。
その後、一旦車庫へ戻るふりをしてマシンをルインキーパーへ運んだ。
この時点ではギルの意識ははっきりしておらず、リベラが何度も声を掛けたが返答はなかった。
糠喜びはただの不幸よりも厳しいとリベラは判断し、佐々木とノアにはゴースト・スキャンのことは黙っておくことにした。
リベラはここにいてもできることはないと、佐々木とノアと共にアヴァロンへ戻る事を決めた。
⋯
アヴァロンへ帰り、ゼウスに状況を説明した。
「いちおう、うまくいきました。⋯しかし、まだ返答がありません」
とりあえず、ゼウスのラボへゴーストスキャンマシンを運び入れた。
ゼウスも当時を思い出し、自分の場合は意識の定着に半年ほどかかったことを打ち明けた。
データになった人間が生きているのか、死んでいるのかを自覚するのは非常に難しいとの事だった。
「だが、ギルさんは妻とこれから生まれる子供が残されている」
ゼウスがそう言うと、ゴーストスキャンに波形がひとつ現れた。
「奥様をいつまで悲しませるのですか?さっさと起きないと佐々木様のハーレムに組み込まれますよ」
リベラが言うと、波形が際立って大きくなった。
『そんなことが許されるかー!』
近くのスピーカーからギルの声が聞こえてきた。
「ギルさん、お早いお戻りで」
ゼウスが言うと、ギルは苛立ったように声を荒らげた。
「ここは真っ暗で落ち着かないんだ。さっさと義体を用意してくれ!」
リベラはどんな義体にするか尋ねた。
ギルは答えた。
「せっかく生き返ったのに同じ格好をしてたら、また殺されるかもしれないじゃねーか。⋯そうだな。俺もゼウス同様、30代の姿にしてくれ」
ギルは記憶を元に、リベラにイメージを伝えた。
⋯
実はギルは以前から義体についてゼウスに相談をしていた。
130歳になり、修理に修理を重ねたギルのボディは調子が良くなかった。
アヴァロンでゼウスの姿を見た時からこの全身義体に興味を持ち、いつか自分も若い姿に戻りたいと思っていた。
今回の一世一代の賭けの最後の締めくくりとして、自分にもそんなご褒美が欲しいと考えていたのである。
翌朝、義体が完成し、データを移植して動作確認を始めた。
これなら俺がギルだってわかる奴はいないだろう。
ギルはそう確信した。
「どうですか、ギルさん。義体の調子は」
ゼウスの言葉に、ギルはぴくんと反応した。
「そうだな。義体は完璧だが、せっかく生まれ変わったんだし、名前を変えようと思う。ギルロイ、ギルフォード…。いや、ギルバートがいいな。俺は今日からギルバートと名乗ることにするよ」
膝の上で泣き続けるリラの頭を撫でながらギルバートは語った。




