150.帝王の終焉
セレノグラフィアでの引き継ぎを終えたギルは、かつての拠点である惑星レガリスへ戻った。
ココは佐々木と出会った街であり、ギルはこの街の顔役として表裏の両面を差配してきた。
しかし、長きにわたる支配からの引退は容易ではない。
ただ身を引けば利権争いが起き、これまでの不正が明るみに出て残された者たちに迷惑がかかる。
ギルは、自らの引き際を慎重に検討していた。
ギルは一か八かの計画を立て、ある所へ極秘の連絡を入れた。
⋯
翌日、レガリスに着いたギルは各部門を統括する番頭たちを本部へ集めた。
「急な呼び出しで済まない。俺は引退し、このレガリスを去ることにした」
最近はセレノグラフィアに滞在していたギルだが、皆それが一時的なものだと思っていた。
偉大な指導者を失うことへの不安を口にする者たちに対し、ギルは語気を強めた。
「俺は130歳を超えている。いくら義体をチューニングしても、いつかは限界が来る。それはわかっていたことだ。大丈夫だ、俺が選んだお前たちならできる。今後は俺のことは気にせず、好きなようにすればいい。店が繁栄しようが潰れようが構わない。俺が選んだお前たちのすることに、文句は誰にも言わせない」
一人の若い番頭が口を開いた。カジノ部門の男だった。
「ちょっといいですか。うちは最近、ノアという優秀な番頭補佐を取られたばかりです。今度は社長がいなくなるとなれば、パワーバランスが崩れる。これまでのように各部門の不正会計のしわ寄せがうちに来るのは、勘弁してほしい」
ギルは頷いた。
「わかった。俺の個人資産を払い出し、それを補填に充てると約束しよう。その代わり、みな今後はクリーンな会計をするように頼む」
「それでは腹の虫が収まらない奴も出てきますよ」
「なに、その時はその時さ」
ギルはそう言い、その場はお開きとなった。
⋯
翌日から、大手企業の不正会計についての問題がニュースに上がるようになった。
かつてギルに辛酸を舐めさせられた者たちが、悠々自適な老後を送ることを許さなかった。
数日後、本社へ強制捜査が入る事になった。
ギルは手錠をかけられ、報道陣の前を歩く。
その時、一発の銃声が響いた。
弾丸はギルの胸元に吸い込まれ、ギルは後ろへ吹き飛んだ。
あたりは騒然となったが、すぐに1台の救急車が停車し、倒れたギルを収容した。
ギルは救急隊員の顔を見ようとしたが、ギルの意識はそこで途絶えた。
その日の夜、レガリスの各局でギルの死亡が報じられた。
⋯
ニュースはその夜のうちにアヴァロンへ届いた。
リラはリビングで、夫の最期の映像を無表情で見つめていた。
「しかたがないね。最後にこうなる事はギルも覚悟していたみたいだし」
周囲の者たちが言葉をかけられずにいる中、リラは静かに自室へと戻った。
だが、扉を閉めた瞬間、リラはベッドに崩れ落ち、声を殺して泣いた。
ギルは出発する直前、自分に何かあったら佐々木を頼れと言っていた。
『何だったら、あいつのハーレムに入ってもいいぞ』
そう言った夫を、リラは全力で殴り飛ばした。
あのアホ面が今は無性に恋しかった。
「ギルゥーーー」
豪華な個室に、リラの悲痛な声が漏れた。
自分を置いて逝ってしまった夫への寂しさに耐えかね、彼女はいつまでも涙を流し続けた。




