147.新たな息吹
解説を一通り終えたリベラが、佐々木に向き直った。
「佐々木様。どうか、この子に相応しい名前を授けていただけないでしょうか?」
佐々木は少し考え、一生懸命にオムライスを食べる男の子の姿と、その瞳に宿る確かな光を見つめた。
「⋯ベガ。ベガっていうのはどうかな?琴座の一等星だ。この船の未来を照らす光になってほしいと思って」
「ベガ⋯。素敵な名前ですね。では、ベガとして登録を更新します」
リベラが微笑むと、男の子は、自分の新しい名前を理解したのか「べがー!」と嬉しそうに声を上げた。
その様子を横で見ていたメイリンは、どこか放心したようにベガをぼーっと見つめていた。
『私が、かあちゃんか⋯。ベガを見てると、なんだか不思議な気分になるね』
しかし、彼女はすぐにいつもの不敵な笑みを取り戻し、隣にいたノアに視線を向けた。
「よしっ!じゃあノアちゃん、今日は私が佐々木を独占していいんだよね?」
ノアは一瞬、戸惑いの表情を浮かべた。
先ほどクレアとのじゃんけんには勝ったが、アヴァロンには『長期間、佐々木と離れていたメンバーが佐々木を最優先で独占できる』という絶対的なルールが存在する。
メイリンは今回の任務で、長く佐々木と離れていた。
「わかったわ。今日はあなたに譲るわ」
ノアは少し名残惜しそうにしながらも、メイリンの権利を尊重して一歩退いた。
「ありがとう。話が早くて助かるよ!」
メイリンは佐々木の膝の上にいたベガをひょいと抱き上げると、そのままノアの腕に預けた。
そして、驚く佐々木の腕を力強く掴んで立ち上がる。
「よし、行こうぜ佐々木! じゃあみんな、さっそく予行演習してくるよ!」
食堂を出ていこうとするメイリンの背中に、アード、オリーヴ、そしてゼウスの老人たちが酒杯を掲げて声を張り上げた。
「 期待してるぞメイリン!」
「頑張りなよー!」
廊下を引きずられるように連れて行かれながら、佐々木はメイリンに言った。
「メ、メイリン、そんなに急がなくても⋯⋯っ」
佐々木の部屋までの短い道のりで、メイリンは急に足を止め、振り返った。
その顔には、いつもの快活さではなく、少しだけ切なげな色が混じっている。
「なんだよ?佐々木にとって、私は『遊び』ってことかよ?」
その少し震える声と、潤んだ瞳に佐々木は胸を突かれた。
どれほど自分を愛してくれているか、その想いが痛いほど伝わってきた。
佐々木はメイリンの肩に手を置き、真っ直ぐに彼女の目を見つめた。
「いや。ちゃんと責任は取るよ。お前を一生、幸せにする」
その男らしい言葉に、メイリンは一瞬目を見開いた後、顔を真っ赤にして俯いた。
今度は彼女の方がグッと来てしまったようで、小さく、しかし確かな声で応えた。
「⋯うん。ありがとう」
2人はそのまま、重なるようにして佐々木の部屋へと消えていった。
⋯
それからしばらくして。
アヴァロン全艦に、祝福のアナウンスが響き渡った。
メイリンのご懐妊が正式に発表されたのである。
ベガという「予行演習」を経て、ついにアヴァロンに最初の新しい命の灯火が灯ろうとしていた。




