146.完璧な設計思想
食事を再開した佐々木たちを前に、リベラは解説を始めた。
その間も男の子は、慣れない手つきながらもスプーンを握り、佐々木の皿から取り分けられたオムライスをあむっと頬張っている。
その無邪気な様子は、どう見ても血の通った人間の子供そのものだった。
「この子は、単なる偶発的な産物ではありません。ここにいる皆さまのリソースが、極めて高度な次元で融合しています」
リベラはこの子の頭に優しく手を置きながら、ゼウスを見た。
「まず思考回路ですが、人の意識をデジタル化して再現するロジックについては、ゼウスさんがアヴァロンへ接続した際の情報を参考にしています」
ここでリベラは一度言葉を区切り、周囲を見渡した。
「この子のデザインコンセプトは、人の子どもの成長を忠実にトレースすることです。そのため、この子の持つ膨大な演算能力は、ふつうのAIのように効率的な解を導き出すためではなく、年相応の子どもらしい予測不能な反応や情緒をシミュレートすることに全振りしています。知性をそのまま出力するよりも、あえて不完全な子どもの振る舞いをリアルに再現する方が、システム的には遥かに複雑な工程を必要とします」
「性能を下げている訳でも、限定しているわけでもないのか。なかなか面白い事を考えるな」
ゼウスは感心したように顎をなでた。
「義体についても、メイリンさんやゼウスさんの義体情報を最適化して構築されました。特に、肌の継ぎ目が一切目立たない仕上げは、ゼウスさんの全身義体作成時の情報を参考にしています」
「なるほどねー。どおりで、さっきから触り心地が最高なわけだ」
メイリンが男の子の頬をぷにぷにと突き、男の子が楽しそうに笑う。
「ちなみに、この子は食事だけでなく、排泄まで完璧に行うよう設計されています」
「えっ、排泄まで!?」
リベラの言葉に、佐々木は思わず食べていたスープを吹き出しそうになった。
「そこまでする必要があるの?」
「はい。より人間らしい生活感を演出するためです。この子のエネルギー源は、私と同じくエネルギーパックのみを利用しています。摂取した食物は、体内の擬似消化器官でナノマシンにより分解・処理され、排泄物として排出される仕組みです」
リベラは平然と続けた。
「食料をエネルギーに変換しないのは、システム上は多少の無駄と言えます。ですが、アヴァロンに食料不足の懸念はありません。それよりも、皆さまと同じものを食べ、一緒に食事を楽しみながら会話ができるという利点を最優先しました」
リベラの説明は、さらに核心へと踏み込む。
「造形は、佐々木様をベースに設計されています。ですが、細部を見てください。目はセレネさん、鼻はノアさんなど、髪に至っては光の具合でハーレムメンバーの皆さまと同じ色になる、かなり特殊な構成でできています」
ノアは自分の鼻と見比べながら確かにと感心した。
「アードさんやオリーヴさんからの溺愛具合についても、このフォルムの選択は正解と言えます。さらに、どことなく佐々木様とハーレムメンバーとの間に生まれたような顔立ちは、近い将来お母様になるみなさまにとって、予行演習になるのではないでしょうか」
「「お、お母さまっ!?」」
ノアとメイリンが顔を赤くした。
「この子は今後、成長させていく予定です。将来的にみなさまのお子様が生まれた際、『良き兄』となる事も期待しています」
ここでリベラはホログラムモニターを展開し、この子の成長イメージを描写した。
モニターに映し出される少年は、成長するにつれて佐々木の面影を強くしつつも、どこか中性的な美しさを帯びていく。
「これが20歳のイメージです」
スクリーンに映し出されたのは、凛々しくも優しげな眼差しを持つ青年だった。
それを見た若いリーナとミラが、興味津々といった様子で、将来の男の子の姿を食い入るように見つめていた。
「「ほぅほぅ⋯」」
食堂にいる面々は、アヴァロンが導き出したその合理性について、深く納得したのだった。
⋯
リベラはあえて伏せている事実があった。
この子の作成は、アヴァロンの自動判断に任せるまでもなく、リベラ自身が以前から密かに計画していた事だった。
自分が生み出したプログラムをベースにしたこの子が、佐々木に愛されるフォルムになるよう、彼女は膨大な時間をかけて研究を重ねていたのだ。
さらに、リベラの計算にはより長期的な展望も含まれていた。
リベラは佐々木の親族から、次世代のアヴァロン管理者を輩出し、この船の運営をより盤石なものにしたいという強い思いを抱いていた。
その管理者を、この子にするのではなく、佐々木とハーレムメンバーとの間に生まれる本当に血の繋がった子どもたちから選びたい。
そのために、佐々木の父性とハーレムメンバーの母性を刺激し、家族という形を強く意識させるため、この子を誕生させた。
リベラは、佐々木に抱き上げられ楽しそうに笑う男の子を見つめながら、静かに満足の笑みを浮かべていた。




