142.プロジェクトの再始動
ガルドが所有する古びた倉庫の片隅。
そこには社長であるガルドを中心に、娘のミラ、アテネ、社員7人が集まっていた。
広大なアヴァロンのドックに比べればあまりに手狭な場所だったが、今の彼らにはこの場所しかなかった。
口を開いたのは、社員7人の中でも古株の1人だった。
「社長。想像ですが、俺たちがアヴァロンを追い出された理由は、あの襲撃者と関係があるんじゃないですか?」
その言葉を皮切りに、職人たちはうすうす感じていた違和感を口にし始めた。
「実は、俺たちも気がついてたんです。この場にいない例の3人。あいつらどうも仕事に身が入っていないというか、妙に浮ついたところがあったんです」
「造船の腕を磨くより、アヴァロンの構造そのものについて興味があるようでした。以前のあいつらとは、何か違う雰囲気が漂っていたんです」
社員たちの言葉を黙って聞いていたガルドは、苦渋を滲ませた表情で拳を握りしめた。
「すまない。三大企業からの妨害でヘキサ・ヤードがほぼ解散状態になっていた間、俺はお前たちの生活を保証してやれなかった。あいつらが変わったなら、それは俺の力不足だ」
ガルドは、生活のために裏切りに手を染めてしまったかつての仲間に思いを馳せ、その点を強調するように続けた。
「おそらく、あいつらはもらった金を使い切るまでは戻ってくることはないだろう。だから一旦、そのことは忘れよう」
一瞬、重苦しい空気が流れたが、社員たちはすぐに顔を上げた。
「社長、これだけ潤沢な資金があり、俺たちの技術力がある。その上、大手企業からの妨害もないのであれば、俺たちはもっと仕事ができるはずです」
「アヴァロンでの豪華客船の製造は途中で辞めざるをえなかったが、これからいくらでも仕事はやってくるさ」
皆のやる気に満ちた表情を見て、ガルドも自分を奮い立たせるように頷いた。
「ああ。また一から出直しだ」
その時、それまで静かに聞いていたアテネが口を挟んだ。
「そんなに悲観することはないよ。佐々木さんはアヴァロンから危険人物を排除したかっただけ。私は、あなたたちの腕は買っているのだから」
ガルドは目を見開いた。
「それはつまり、⋯どういう事だ?」
アテネが答えようとしたその時、倉庫の前に1台の高級車が停車した。
中から降りてきたのは、リベラとギルだった。
「皆さんに、改めて豪華客船の製造をお願いしたいのですが」
リベラは迷いのない足取りで近づき、そう切り出した。
ガルドは驚きを隠せずに問い返す。
「つまり、セレノグラフィアで俺たちに宇宙船を作れと依頼してくれるのか?」
「はい、そのつもりです」
リベラが即答した。
ガルドは周囲を見渡し、苦笑いした。
「だがな、今の俺たちにはあんな大きな船を作るドックも資源もねえ。それに、肝心の作業員も不足している」
「その点については、こちらのネクサス・システムズのギルさんの協力を得ようと思います」
リベラが説明すると、ギルが不敵な笑みを浮かべて前に出た。
「俺が場所でも、人でも、物でも、お前らが必要なモノを何でも用意してやる。その代わり、佐々木が望む最高の船を作れ!」
ギルの力強い言葉に、ガルドと7人の職人たちの目に希望の光が宿った。
翌日から、ガルドたちはネクサス・システムズ内に大型プロジェクトチームを発足させた。
ガルドがプロジェクトリーダーに就任し、作業を一手に引き受ける。
場所はネクサス・システムズが保有する最新鋭のドック。
ネクサス・システムズの作業員が作業支援に当たった。
そこへ、ギルを経由してアヴァロンから莫大な資材が納入されるという、かつてない規模の共同事業が動き出した。




