141.崩壊のシナリオ
テレビでは、壇上から逃げるバトラーを、容赦のないフラッシュが追いかけていた。
画面がスタジオに切り替わると、アナウンサーは手元に届いたばかりの原稿を読み始めた。
「現在、ネット上で拡散されているボレアス・ダイナミクスの私設宇宙軍の情報については事実関係を確認中です」
⋯
応接室では、ギルがソファに腰掛け、この番組を眺めていた。
ギルはリベラから提供された情報を、わざと真偽不明として拡散した。
その結果、目論見通り、ネット上では蜂の巣をつつついたような騒ぎとなっていた。
こうなっては大手メディアも後追いで私設宇宙軍の疑惑を報じざるを得ない状況だった。
「クリーンで知名度のある奴が、実は悪いやつでしたなんて、いかにも大衆が好みそうなネタに仕上げられたな」
そう言うギルの端末の画面には、流出したボレアス・ダイナミクスの『作戦行動記録』が映っていた。
そこには、競合他社の新型船をデブリ衝突に見せかけて航行不能にするための攻撃方法や、特定の小惑星採掘権を独占するために、調査船を宇宙海賊を装って排除させる方法が生々しく書かれていた。
当初は疑惑として扱われたこの情報は、近隣で発生した「原因不明の海難事故」や「未解決の襲撃事件」の公式記録と一致するものがわかった。
もはや、この情報を捏造と言い張るには無理があった。
折しも、このニュースは金曜日のマーケットが締まる直前のタイミングで流れた。
ボレアス・ダイナミクスの株価は、ニュースを見た感度の高い人が売り出した所で今日のマーケットは締めを迎えた。
株主が、休み明けにどんな行動をするかは明白だった。
この先、ボアレス・ダイナミクスの株価は数日の間、ストップ安が続く事になる。
「誰にも見向きもされず、価値がゴミ同然まで下がりきった所で、市場の株を根こそぎ買い叩かせてもらうぜ」
笑いが収まらないギルを部屋に残し、リベラは次の目的地へ向かった。
⋯
バトラーは病気療養中という名目で、病院の特別スイートに匿われていた。
深夜、彼が深い眠りについていると、胸に圧迫感を感じた。
目を覚まし、叫ぼうとした瞬間に口をテープで素早く塞がれた。
パニックに陥り、手足をバタつかせるバトラーに対し、暗闇から冷徹な声が響いた。
「命がほしければ静かにしろ」
3人の黒尽くめの男がバトラーを組み伏せ、逃げ場を奪った。
抗う術を失ったバトラーは、絶望の中で静かにうなずくしかなかった。
「次に公開されるニュースはコレだ」
黒尽くめの男はそう言ってバトラーに動画を見せた。
バトラーは、動画を見ながら体から血の気が引くのを覚えた。
「コレが世に出ればお前はもう外は歩けないだろうな」
⋯
翌日、テレビニュースではバトラーが一身上の都合で私設宇宙軍の総司令官を辞職することを速報で伝えていた。
昨夜の沈黙の契約は、彼のキャリアと地位を完全に終わらせたのだ。
そのニュースが流れる中、リベラはドレッドノートの事務所を訪れていた。
「ご協力に感謝します」
リベラは昨夜の男たちの派遣について謝辞を述べ、傍らに置いていたアタッシュケースをテーブルに載せた。
開かれたケースの中には、通常の市場には決して出回らない希少資源がぎっしりと詰められていた。




