138.責任の代償
食堂を後にしたガルドは、重い足取りでスタッフたちが軟禁されているシェルターエリアへと向かった。
その入り口には武装した警備ドロイドが立ち並び、物々しい雰囲気が漂っている。
自動ドアが開くと、そこには不安と焦燥の中で待機していた10名のヘキサ・ヤードのスタッフたちがいた。
ガルドは部屋の中へ入ると、スタッフたちを見渡した。
「皆に、伝えることがある」
ガルドの声は低く、そして重かった。
「先ほど、アヴァロンの所有者である佐々木さんから、最終的な決定が下された。我々ヘキサ・ヤードは⋯本日をもって作業を中止し、全員セレノグラフィアへ戻ることになった」
一瞬、シェルター内を凍りついたような静寂が支配した。
やがて、スタッフたちが戸惑いを隠せない様子で口を開いた。
「戻るって⋯⋯どういうことですか?」
「そもそも、なぜ我々は昨日からここに軟禁されていたんですか?」
「説明もないまま、強制送還だなんて納得できません!」
「それに、建造中の船はどうなるのですか?我々が帰れば、あの船は未完成のまま放置されることになります。技術者として、あまりにも無責任です」
彼らに、自分たちが何を疑われ、排除されるのか、その理由は一切知らされていない。
ガルドは目を閉じ、部下たちの純粋な問いを自らの罪として受け止めた。
「すべては、私の不徳の致すところだ。私の管理が、私の認識が、あまりに甘すぎた。その結果として、我々はアヴァロンからの信頼を完全に失ったんだ。船の行く末について語る資格さえ、今の我々にはない」
ガルドの絞り出すような言葉に、スタッフたちは唇を噛み締め、それ以上は何も言わなかった。
本当の理由を隠し通そうとするリーダーの苦渋の表情を見て、それ以上追及することができなかった。
自分たちの誇りである「仕事」を奪われるという事実を、受け入れる事しかできなかった。
「荷物をまとめろ。1時間後には、セレノグラフィアへ戻るための輸送船が出る。一人として例外は認められない。これは決定事項だ」
ガルドはそう言い捨てると、自分の準備のため部屋を出た。
10名のスタッフも、静かに、だが深い無念を抱えたまま、持ち込んだ最低限の道具を片付けるために動き出した。
⋯
食堂ではリベラが佐々木に向き直り、静かに一礼していた。
「佐々木様、私はガルドさんたちを送り届けるついでに、セレノグラフィアで少々片付けたい用事がございます。数日で戻りますので、アヴァロンでお待ち頂けますでしょうか」
戸惑う佐々木に、リベラは安心させるような柔らかな笑みを浮かべた。
リベラの背後の扉からリベラのコピーアンドロイドが静かに入室し、佐々木の前で優雅に会釈をした。
「不在の間、このコピーをおそばに置いて下さい」
リベラはそう言い残すと、メイリンとアテネを連れてドックへと向かった。
ガルドたちの送還には、『スターゲイザー』が使用された。
船内にはガルドとミラ、そして10名のスタッフたちが座っていた。
⋯
セレノグラフィアのドックに到着して、ハッチが開く前にガルドが全員を呼び止めた。
「皆、聞いてくれ。これが今回の報酬だ」
ガルドが端末から報酬を送信すると、スタッフたちの間に衝撃が走った。
「1億クレジット!? ガルドさん、これは一体⋯」
「アヴァロンでの出来事は一切他言無用だ。これはその口止め料を含んでいる。皆いいな?」
3人のスタッフは、その金額に満足げな表情を浮かべ、足早に船を降りていった。
その中には内通者が含まれていたが、リベラはそっと生体IDへのマーキングを完了させていた。
一方で、残りの数名は報酬を拒否した。
「俺たちはガルドさんとまた仕事がしたい。この金はヘキサ・ヤードの復興に使ってください」
彼らの言葉にガルドは深く頭を下げた。
ドックのゲート前で、リベラとガルドは最後の言葉を交わした。
「リベラ、お前がアヴァロンへ戻る前に話したい事がある。すまないが連絡をくれないか?」
リベラはガルドの願いを聞き入れた。
ミラとアテネはガルドに同行することを決め、3人とスタッフたちは共に倉庫街へ消えていった。
残されたリベラは、隣に立つメイリンに視線を向けた。
「さて、メイリンさん。別の約束がありますので行きましょうか」
2人はスターゲイザーには戻らず、オフィス街の方へと消えていった。




