136.疑わしきは起用せず
ルインキーパーから佐々木たちは、敗残兵で満載となった旗艦を静かに見送った。
周囲には、先ほどまで彼らが乗っていた、30隻以上の宇宙船が漂っていた。
アードはモニターに映し出された大量の船影を見やり、リベラに問いかけた。
「リベラ。この船をどうするつもりだ? アヴァロンに持ち帰るのか?」
アードの言葉に、リベラは首を振った。
「いえ。そのまま使ってもいいですが、どのような細工を仕掛けられているか分かりません。ココで全て破壊して、資源に換えてしまいます」
リベラは宇宙船と通信し、次々とエンジンを起動させた。
宇宙船は残された小惑星の残骸目がけて一斉に加速した。
宇宙の闇の中で、次々と金属の咆哮を上げるような閃光が走った。
すべての宇宙船が小惑星に激突し、すべてが砕け散った。
ふと気づけば、ルインキーパーの周囲には、先程小惑星に衝突した船と同型機が停泊していた。
「ここら一体に大量のナノマシンを散布し、資源収集を行います。小惑星の資源と船の残骸、1週間もあれば、すべてを回収し尽くせるでしょう」
リベラは佐々木の方を向き、深々と頭を下げた。
「佐々木様、この度の交渉をお任せいただき、ありがとうございました。少々、出過ぎた真似をしましたこと、お詫び申し上げます」
「いや、リベラ。僕が頼りないばかりにムリをさせてごめんね」
佐々木の返答にリベラは一瞬、優しい顔になった。
「さて、次はガルドさんたちの処分について、検討する必要がありますね」
その言葉に、佐々木は表情を引き締めた。
アードが重い口調で、佐々木へ向き直った。
「佐々木。今回のような裏切りを行った輩を、このままアヴァロンに置いておくのはあまりに危険だ。犯人を特定して罰するのも手だが、そういった火種が残れば、必ずまた同じ事が起こるぞ」
佐々木は眉をひそめ、問いかけた。
「では、どうすればいいでしょうか?」
すると、メイリンが軽く肩をすくめて口を開いた。
「疑わしきは起用しない。それが一番確実だよ!」
⋯
アヴァロンへ帰還後、リベラはシェルターエリアのガルドへ個別通信を繋ぎ、ガルドだけを食堂に呼び出した。
アヴァロン内の食堂では、通信を受けて現れたガルドが、怒りを爆発させた。
「どういうつもりだ? なぜ俺たちはいつまでもシェルターに閉じ込められなきゃならんのだ!」
詰め寄ろうとするガルドに対し、リベラは無言で人差し指を口に当て、黙るよう指示した。
リベラは迷いのない動きで彼の身体検査を始めた。
リベラの手がガルドの胸ポケットを探り、一粒の小さなバッジのようなものをつまみ出した。
ガルドが目を見開く中、リベラは無表情にその物体を指先で握りつぶした。
パキッという音と共に、中の基板が砕け散った。
「盗聴器です」
リベラは冷たく言い放ち、ようやく本題に入った。
「ガルドさん、あなたが連れてきた仲間の中に、敵軍と通じていた内通者がいます」
「なんだと?」
ガルドを黙らせ、リベラは通信記録を再生した。
『⋯ココには女と年寄りが10人ほどしかいない。攻め込むなら今だ』
荒い音質ではあったが、ガルドはその声に聞き覚えがあった。
リベラは追い打ちをかけるように、淡々と事実を告げた。
「ちなみに、今回のアヴァロン襲撃を指揮していたのは、ボレアス・ダイナミクスの私設宇宙軍でした」
その言葉を聞いた瞬間、ガルドの顔から血の気が引いた。
先ほどの声の主、そしてボレアス・ダイナミクスとの繋がり。
全てのパズルが組み合わさり、ガルドは誰が情報を流していたのかを確信した。
ガルドは深く頭を下げた。
「⋯すまない。俺の責任だ。もう二度と、こんな真似はさせないと誓う。だから、許してくれ」
リベラはガルドに答えを突きつけた。
「いいえ。ガルドさんたちにはセレノグラフィアへ戻っていただきます。もちろん、これまでの給金として今後遊んで暮らせるほどの資源をお渡しします」
「金の問題じゃない!俺たちに仕事を最後までやらせてほしい!」
ガルドが職人としての意地をみせ、土下座をした。
佐々木は、許すセリフを言おうとしたその時だった。
「甘いな」
短く、重い声が響いた。
アードが2人の間に割って入った。
「佐々木。お前は今回の問題を、どう考えているんだ?」
口ごもる佐々木を前に、アードは関係のない話をはじめた。
「そういえば、リーナに両親がいない理由を話していなかったな」




