135.無慈悲な賠償
「⋯⋯降伏する。我々の負けだ」
総司令官は力なく両手を突き、床に視線を落としたまま宣言した。
リベラは無表情にその発言を聞き、隣に立つアードを振り向いた。
「アードさん、アヴァロンが降伏した時は、どのように処理されたのでしょうか?」
アードは少し言いにくそうにしながらも、淡々と過去の事実を述べた。
「そうだな。要塞そのものを徴収し、それ以外の艦船や物資といった資産もすべて没収するのが、この世界の常道じゃ。奴らには何も残さぬ、それが普通だな」
「それは、単なる戦利品としてですか?」
リベラの問いに、アードは首を振った。
「それより、敗者に武器や移動手段を与えたままにすれば、必ず再起を図り、背後から牙を剥く。反撃の意志を根底から挫くためには、その牙も爪も、逃げるための翼すらも、すべてを奪い去って無力化する。それが戦の鉄則というものじゃ」
「なるほど。徹底的に奪うことが、一番の安全策なのですね。では、あの要塞および、この宙域に漂うすべての宇宙船を徴収します」
その瞬間、ブリッジに絶望が広がった。
宇宙船をすべて奪われるということは、捕虜として引き立てられるか、ココで見捨てられて死を待つ事を意味する。
だが、リベラは面倒そうに小さく溜息をついた。
「とはいえ、あなたがたを捕虜として連れて帰るのは非常に手間がかかります。食事の用意も、収容場所も必要ですから。正直、時間の無駄です」
リベラは総司令官を見ながら結論を言った。
「そこで、この旗艦一隻だけは、あなたがたに提供します。全ての武装を解除し、今すぐこの宙域から立ち去ってください」
総司令官は、屈辱に顔を歪ませながらリベラを見上げた。
「わ、わかった⋯」
「今から1時間以内に、この旗艦に残存艦隊の全員を乗せ、移動をして下さい」
総司令官は、すぐに絶叫に近い声を上げた。
「いや、1時間は流石にムリだ!そんな要求は飲めない!」
だが、リベラは怒ることもなく、穏やかに言った。
「そうですか。⋯別に構いません。無理にとは言いませんので」
あまりに呆気ない引き下がりに、ブリッジの兵士たちは困惑した。
リベラは佐々木の方を向き、いつもの調子で告げた。
「佐々木様、アヴァロンへ帰りましょう」
リベラがそう言って歩き出したため、佐々木たちもそれに続いた。
総司令官はリベラの「ものわかりの良さ」に、拭いきれない違和感と恐怖を感じていた。
リベラの真意は、すぐに判明した。
ブリッジの外を、高速で何かが横切って行った。
それは、所属不明の大型船だった。
その船はスピードを落とさず、高速のまま、先ほど真っ二つに割れた小惑星の片方へ激突した。
直後、真空の宇宙で音もなく凄まじい閃光が爆ぜた。
小惑星を構成していた岩塊は粉々に砕け散り、宇宙の塵へと変わっていった。
総司令官の背筋を、氷のような戦慄が駆け抜けた。
先程の「できない」という返答の結果、「没収」が「消去」に切り替わったと理解した。
1時間以内にこの場から消えないものは、あの小惑星と同じ運命を辿ることになる。
総司令官は椅子を蹴り飛ばし、必死の形相でリベラたちを追いかけ言った。
「ま、待ってくれ! わかった、そちらの要望をすべて飲む!」
その後の1時間は、まさに地獄のような狂騒となった。
総司令官からの緊急放送の後、 宇宙空間を埋め尽くしていた30隻以上の宇宙船が次々とこの旗艦に接舷し、乗組員たちが乗り移ってきた。
あっという間に、旗艦の中は定員を超えた人で溢れかえっていた。
通路や倉庫、あらゆる隙間に人間が押し込められた。
きっちり1時間後。
すべての武装を失った船が、大量の人間を乗せこのエリアを離れた。
彼らは誰一人として不満を口にする余裕すらなかった。




