134.侵略の代償
ルインキーパーが小惑星の本部要塞にたどり着いた時、そこには凄惨な光景が広がっていた。
かつては威容を誇っていたであろう天然の小惑星は、至る所から噴出した内部ガスや冷却剤が白く霧のように漂い、無数の火花と構造物の破片が宇宙空間に散っていた。
それはまるで、目に見えない巨大な猛獣に噛み砕かれたかのような惨状だった。
要塞から少し離れた宙域には、命からがら逃げ出した宇宙船が、統制を失った様子で漂っていた。
リベラが平然とした様子で通信回線を開いた。
「私たちはアヴァロンから来ました。代表者にお話があります」
しばらくの沈黙の後、応答があった。
指定されたのは、残存艦隊の中でもひときわ巨大な旗艦への着艦だった。
ルインキーパーを接舷させ、案内されたブリッジに佐々木、リベラ、メイリン、アードの4人が足を踏み入れた。
そこには、混乱と怒りで顔を紅潮させた総司令官が待ち構えていた。
「お、⋯お前たちは一体何者だ? 何の目的でここへ来た!」
その怒号に対し、リベラは冷ややに答えた。
「おや?皆さまは敵の正体もわからずに攻めてきていたのですか? それでは甚大な被害が出るのも仕方がありませんね」
すべてがバレていると、総司令官はリベラの一言目でそれを理解した。
リベラは続けた。
「ですが、我々はそのようなくだらない話をしに来たのではありません。あなたがたの背後に誰がついていて、なぜアヴァロンを狙ったのか。それを教えていただけますでしょうか」
「ふん!誰がそんな質問に答えるものか!」
総司令官は吐き捨てるように言った。
「これだけの被害を被ってもなお、まだそのようなことが言えるのですか?」
リベラの問いかけに、総司令官は机を叩いて立ち上がった。
「黙れ! 貴様ら数人に何ができるというのだ。ここからタダで帰れると思うなよ!」
総司令官が凄むと同時に、周囲の兵士たちが武器を手に、佐々木たちを拘束しようとにじり寄った。
メイリンが身構え、佐々木はその背中に隠れ、アードが息を呑んだ。
だが、リベラだけは視線すら動かさなかった。
「⋯何ができるか、ですか?」
リベラはそう呟くと、窓の外に見える、今なおガスが噴出している小惑星を指さした。
表面のあちこちが砕けたその巨大な岩塊は、その形を保って浮かんでいた。
「ボンッ」
リベラが小さく、可愛らしくさえある声で言った。
ブリッジのメンバーはビクリとし、小惑星を眺めた。
だが、何も起きない。
総司令官を含め、周囲の兵士たちの口元に嘲笑の色が浮かんだ、その瞬間。
小惑星の中央付近で、一筋の閃光が走った。
それはまるで精密に配置されたダイナマイトが順に起爆していくかのように、小惑星の外周をぐるりと一周、火花が連鎖的に駆け抜けた。
宇宙空間に光の輪が描き出されたと思った直後、内部から噴き出した圧力が巨大な岩塊を押し広げ、全長10キロメートルの小惑星は真っ二つに割れた。
「な……っ!?」
総司令官の顔から血の気が引いた。
小惑星を、まるで玩具でも壊すかのように「解体」してみせたのだ。
リベラはゆっくりと総司令官に顔を向けた。
「……何ができるか、ですか?」
今度は、少し離れた場所に固まって浮遊している宇宙船の方を、無造作に指さした。
リベラは、まるで道端の石ころを蹴り飛ばすかのような無関心さで、ゆっくりと、口を開きかけた。
「ま、待ってくれ! やめるんだ!!」
総司令官は椅子を蹴り飛ばし、なりふり構わず絶叫した。
あと少し、自分の返答が遅れていれば、残った宇宙船が宇宙の塵に変わることを理解した。
総司令官は力なく床に膝をつき、震える声で話し始めた。
「わ、我々はボレアス・ダイナミクスの私設軍だ。宇宙空間における『黒い利権』を一手に担う執行機関だ。地上における利権や裏の工作は、ネクサス・システムズと繋がるバルガスが仕切っている。互いに不可侵の領域を持ち、セレノグラフィアのあるこの宙域の秩序を、影から支配してきた」
総司令官はすべてを諦め話し続けた。
「この小惑星本部は組織の拡大に伴い、もはや手狭になっていたのだ。そこに舞い込んできたのが、直径80キロメートルにも及ぶ巨大要塞の存在だった。驚くべきことに、その巨体でありながら守備に就いているのは数名の人員のみだという。それほどの要塞が、容易に制圧でき、新たな基地として『徴収』できる絶好の獲物に見えたのだ」
「身勝手な理屈だな。隙があるから奪って当然だというわけ?」
メイリンの冷ややかな言葉がブリッジに響いた。
「だが、まさかこれほどまでの……化け物が潜んでいるとは計算外だった」
総司令官はそう言うと、リベラを直視できずに視線を落とした。
リベラは小さく溜息をつくと、総司令官を射抜くような鋭い声で告げた。
「効率を求めた結果、自分たちの拠点を失い、艦隊を全滅されかけるとは。随分と高くついてしまいましたね」
総司令官は言葉を失い、ただガタガタと震えることしかできなかった。




