133.死神を導くパンくず
食堂を出ようとする佐々木、リベラ、そしてメイリン。
その背中にアードが声をかけた。
「待ってくれ。ワシも連れて行ってくれんか。ワシの要塞を襲った奴らを、この目で見たいんじゃ」
佐々木はアードの硬い決意を感じ、黙って頷いた。
4人はルインキーパーに乗り込み、急速に移動を開始した。
⋯
帰還中の5隻の宇宙船は、ようやく本部との直接通信が確立された。
モニターに映し出された本部の総司令官は、通信先の人物を見て不審な顔をした。
「ん? お前は誰だ?」
報告を行っている艦長は、今回の作戦で出動した60隻の中でも下の方の階級であり、これまで総司令官と直接会話したことがなかった。
艦長は緊張に喉を鳴らしながら、手短に己の立場と事の経緯を説明した。
「侵入者からの情報に基づき、当初20隻を先遣隊として送り込んだところ、アヴァロンはレーザー砲を発射。先遣隊は瞬時に撃破されました」
「何を馬鹿な!20隻を一度に沈めただと?」
総司令官の顔が驚愕に歪んだ。
総司令官は、現在の軍事技術において、それほどの大群を一撃で消滅させる高出力レーザー砲が実装されたという話は聞いたことがなかった。
「はい。しかし、潜入者からの追加情報により、その直後に深刻な問題が発生して次弾の発射が不可能であることを察知した提督が、自ら40隻を率いて再攻撃を仕掛けたのです」
総司令官はその報告を聞き、浅く頷いた。
つまり、そのレーザー砲は試作機のまぐれ当たりに過ぎず、故障で撃てぬ隙に叩き潰そうとした提督の判断は正解だと推測した。
勝機を逃さぬ指揮官として、至極妥当な選択に思えた。
艦長は、戦術データと映像を本部へ転送しながら続けた。
「情報通りレーザー砲は発射されませんでした⋯」
艦長は続きを、どう報告するか少し考え、少し口ごもった。
「⋯そこから起きたことは、我々の常識では説明がつきません。何の前触れもなく旗艦が爆散しました。そして、現在の5隻を残し、他の全ての艦が、⋯一瞬でバラバラに破壊されました」
流れる無惨な映像を前に、総司令官は震えながら絶句した。
たった数分で艦隊の大部分を失い、さらに「正体不明の攻撃」という理解を超えた脅威を突きつけられたのだ。
今回の損失と、得体の知れない敵への恐怖の前に、声も出なかった。
やがて、総司令官は絞り出すような声で、戻ってきた5隻を迎え入れる準備を命じた。
彼らの本部は、全長10キロメートルほどの巨大な小惑星だった。
天然の小惑星をくり抜いて作られた要塞であり、自走機能は持たない。
5隻の宇宙船は、小惑星のくぼみに見せかけた港へと滑り込み、接舷した。
艦長が直接報告を行うべく艦を降りようとしたその時、足元を突き上げるような大きな衝撃が走った。
「なんだ!隕石でも衝突したか?」
しかし、衝撃は一度では終わらなかった。
尋常ではない事態を感じた艦長は、急ぎ艦内に戻った。
本部のブリッジに状況を確認すると、そこは慌ただしい状況となっていた。
「報告しろ! 何が起きてる!」
艦長の指示に通信士は答えた。
「小惑星の各所で爆発が発生しています! 外部からミサイルのような着弾が続いていますが、あまりに速すぎて迎撃が全く間に合いません! 命中した箇所から施設が次々と破壊されています!港湾ブロック、動力セクションが損壊……今、司令部から緊急避難の指示が出ました!」
この衝撃は、小惑星に何者かが攻撃を仕掛けているのだと言う。
だが、外部に敵の姿はない。
それなのに小惑星上の複数の場所で、断続的に凄まじい衝撃が発生していた。
「全艦、離脱しろ! ここにいたら全滅するぞ!」
本部からの命令により、帰還したばかりの5隻、および小惑星に停泊中だった30隻の宇宙船のほとんどが、一旦小惑星から退避した。
ハッチが閉まり、自艦が要塞から離れていく振動を感じながら、艦長は震えていた。
艦隊をなぶり殺しにしたあの「不可解な現象」が、自分たちの帰還と同時にこの要塞を襲い始めたのだ。
偶然などではない。
自分たちが必死に逃げ帰ってきた結果、この本部に死神を呼び寄せてしまったのではないか。
その疑念が、彼を底知れぬ恐怖へと突き落とした。




