131.受け継ぐ牙
「でも、一体誰が、ここを襲ったんだろう?」
佐々木が呟いたその問いに、食堂を重苦しい沈黙が支配した。
一同は互いの顔を見合わせるが、今はあまりに情報が少なすぎる。
アヴァロンの存在自体、限られた協力者にしか明かしていないはずだった。
食堂の扉がひらいた。
シェルターエリアに一時避難していたガルドと造船スタッフたち、そしてアテナが駆け込んできた。
「佐々木さん、やっと帰ってきてくれた!これから俺たちは、建造中の船の被害状況を確認する。ミラの事を頼んだぞ」
ガルドが緊迫した表情で言い、スタッフたちと共に慌ただしく持ち場へと戻っていった。
入れ替わるようにして食堂に現れたのは、ノアとクレアの二人だった。
彼女たちはよほど恐ろしい思いをしたのか、顔を青ざめさせ、佐々木の姿を見つけるなり縋り付くように抱きついてきた。
「佐々木さん……! 本当に、もう終わりかと思ったわ……」
「怖かったです、凄まじい振動で……!」
震える二人を、佐々木は優しく受け止める。
「大丈夫、もう心配ないよ」
その言葉に二人はようやく安堵の吐息を漏らしたが、アードは依然として険しい表情を崩さない。
「しかし佐々木、現状のワシらには攻撃の術がないんじゃ。これじゃ、ただの標的じゃないか?」
その懸念を裏付けるように、リベラのコピー体が再び声を響かせた。
「警告。所属不明の宇宙船が急速に接近中。数は先ほどの倍の40隻です」
「いかん! 主砲が使えん今、まともに受けて立てばアヴァロンと共に宇宙の藻屑になるぞ! 佐々木、皆を連れて退避を!」
アードが声を荒らげ、全員に避難を推奨する。
しかし、この絶望的な状況下で、リベラ本体だけは驚くほど落ち着いた様子で微笑んでいた。
「皆様、大丈夫ですと言ったはずです」
オリーヴが苛立ちを隠せず問い詰める。
「リベラ。どうやって対処するというんじゃ?こちらには戦う術がないのに」
「戦う術はあります。皆様にはまだ、ご説明する機会がありませんでしたね。アヴァロンが完成する以前から『アーク』には常に資源を狙う敵対勢力が接触してきていました。このところは鳴りを潜めていましたが、アークにはそれらを迎え撃つための確実な攻撃手段が存在します」
リベラはそう言うと、迫りくる40隻の宇宙船を映し出すメインモニターを見るよう促した。
「アークには、自爆装置を搭載した資源運搬船が5000隻以上配備されています」
リベラが言うとアードが返答した。
「なるほど。それで迎え撃つのか?」
「いえ。それらを使ってもよいのですが、今後の資源運搬業務に支障をきたす可能性があります。そのため、運搬船の自爆装置の機能だけを切り出した『小型特攻船』を新たに作成しました。あの敵対勢力を見ていて下さい」
リベラが指し示した瞬間、モニターの中央で異変が起きた。迫りくる敵艦隊のど真ん中に位置していた巨大な宇宙船が、何の前触れもなく激しく爆散したのだ。
爆発は連鎖反応のように次々と左右へ広がり、火球が宇宙の闇を焼き尽くしていく。40隻いたはずの船団は、一瞬にしてそのほとんどがスクラップへと変わり果てた。
「な、何が起きたんだ?」
絶句する佐々木に、リベラは淡々と解説を加える。
「この宙域にステルス状態で待機させていた小型特攻船が衝突しました。ちなみに特攻船はアヴァロンの資源で1時間で10隻生産可能です。現在、資源運搬船を遥かに凌駕する数が、存在しています」
宇宙船のうち、辛うじて爆発を免れた数隻が、慌てて反転を開始した。
「あっ、宇宙船が逃げ出していくよ!」
オリーヴが叫ぶように指摘したが、リベラの瞳には冷徹な光が宿っていた。
「はい。ここからは、『猟犬』の出番です」




