125.技術革新を生む曲線
ウェイクボードを存分に楽しんだメイリンたちがホテルの部屋へ戻ると、そこには異様な光景が広がっていた。
ベッドの周囲には無数の設計図のホログラフが浮かび、その中心でセレネが燃え尽きたようにうつ伏せで倒れていたのだ。
遅れて佐々木が部屋に入ってくるなり、セレネは弾かれたように飛び起きて彼に抱きついた。
まるで無接点方式の充電器が電力を吸い上げるように、佐々木の体温から何かをチャージしようとしている。
「どうしたの、セレネ。何かあった?」
佐々木が優しく問いかけると、セレネは顔を埋めたまま声を漏らした。
「…煮詰まっちゃった。エネルギー炉の出力は十分なんだけど、どうしても収束が不安定なの。どうすればいいか分からなくて」
佐々木たちが解決策を持っているとは思っていなかったが、今の彼女は誰かに弱音を吐き出さずにはいられなかった。
そんなセレネの肩を、メイリンが優しく叩く。
「そんなに詰め込まないでさ。時間はたっぷりあるんだし、明日は一緒に海にでも行って気分転換しようよ」
「そうね…ありがとう」
セレネは弱々しく微笑んだ。
「そうだ、これ見てよ!」
湿っぽい空気を吹き飛ばすように、メイリンが突然服を脱ぎ捨てた。
今日購入したばかりの、布地面積が極端に少ない衣装をセレネにと見せつけた。
「なっ、なにそれ?」
驚きつつも、その過激な衣装にセレネの目が見開かれた。
「リベラから聞いたんだけど、コレって佐々木の好みの下着なんだ」
「ちょっ、またそれを言うの?」
焦る佐々木をよそに、セレネは楽しそうに笑い出した。
「ふふっ、なんだか元気が出てきたかも。私、みんなと一緒にいられて、毎日が本当に楽しくて、今、すごく幸せ⋯」
そう言った直後、セレネの動きがピタリと止まった。
その視線は、メイリンの鍛え抜かれたメリハリのある体に釘付けになっている。
「ん?セレネ⋯」
佐々木のもとを離れ、セレネは無言でメイリンに詰め寄った。
そして、メイリンの肩から腰、腰のくびれ、再び広がる滑らかな曲線に、熱に浮かされたように触れ始めた。
「ちょっ、セレネっ、ん、どこ触って……っ」
熱心にラインを確認しようと指を滑らせるセレネの手つきに、メイリンは思わず色っぽい声を漏らしてしまう。
だが、セレネにはメイリンの羞恥など目に入っていなかった。
「このライン……この滑らかな誘導……そうか、コレだわ!」
メイリンの肉体が描く黄金比とも言える曲線が、セレネの脳内でエネルギーを効果的に収束させる構造として完璧に結びついた。
「メイリン、あなた最高よ!」
セレネはメイリンに抱きつき、続いて放り出していたタブレットを掴み、風のように部屋を飛び出していった。
「問題が解決したようですね」
リベラが淡々と告げた。
数年後、セレネが構築したエネルギー炉は、かつてないほどのエネルギー集約を実現し、凄まじい高出力を誇るレーザー砲として結実することになる。
セレネ博士が設計したにもかかわらず、その革新的な集約構造にはなぜか「メイリン・カーブ」という名が冠された。
後世の技術者たちは「なぜこの名がついたのか」と頭を悩ませることになるが、その真実を知るのは、あの時あの部屋にいた者たちだけだった。




