124.モラトリアムな少女たち
佐々木たちと別れたミラ、リリィ、リーナの3人は、ひとまずこの後の予定を立てるため近くのカフェに入った。
注文を終えて席に座ると、3人はようやく小さく息を吐いた。
「ねえ、正直に言っていい? 私、10万クレジットなんて大金、今までに持ち歩いた事がなくて心臓がバクバクしてるんだけど」
ミラが白状するように切り出すと、リリィとリーナも深く頷いた。
「実は私も。でも、隣でセレネさんが1000万クレジットとか受け取ってるのを見たら、感覚が麻痺して何も言えなくなっちゃって」
リリィが苦笑いしながら応じる。
それもそのはずだった。
リリィは奨学金を得て学校に通っていた苦学生だったし、リーナは両親がおらずアードと2人で必死に働いてきた。
ミラにしても実家が大手企業の嫌がらせを受けていた時期が長く、裕福な記憶は遠い昔のことだった。
お金の話から、話題は自然とお互いの身の上、そして佐々木の事へ移っていった。
「あのね。アヴァロンに来てからずっと気になってたんだけど⋯」
ミラが少し声を潜めて、2人に尋ねた。
「2人とも、まだ佐々木さんのハーレムには入ってないんだよね?」
リーナは特に気負う様子もなく答えた。
「私はおじいちゃんから入ってもいいぞって言われてるけど、今の所、入らなくても追い出される事はなさそうだし、特に考えてないかな」
一方、リリィは少し歯切れが悪そうに「入っていないわ」と答えるに留めた。
それを見かねたリーナが補足を入れる。
「リリィは昔、リベラさんが無理やりハーレムに入れようとしたことがあったんだよね。それを佐々木さんが止めてくれたの。ちなみに、今はどうなの?」
リリィは視線を泳がせながら、絞り出すように答えた。
「オリーヴさんがやってきてから、レーザー砲について学ぶことがまだまだ多くて。今はそれどころじゃない…っていうのが正直なところかな」
その答えを聞いて、ミラは少し安心した。
2人が宙ぶらりんの状態でアヴァロンに留まっていることが、自分と同じように感じられたからだ。
「ミラはこの先、どうするの? アテネさんと仲が良いみたいだけど、やっぱり建築とか造船に興味があるの?」
リーナの問いに、ミラは困ったように首を振った。
「ううん。私は学校で経営に関する勉強をしてきたから、造船や建築はわからないの」
すると、リリィが思い出したように話し始めた。
「リベラさんが以前、言ってたんだけど。佐々木さんはアヴァロンの所有者としては普通すぎるじゃない。だから、いろんな能力を持った人たちがサポートすることが、結果的に私たちの安寧に繋がるんだって」
「佐々木さんを、周りの人が守るってこと?」
「うん。今のアヴァロンは技術職の人が多いから、経営を学んだミラならすごく役に立つんじゃないかな?」
ミラは目から鱗が落ちるような思いだったが、先ほどのリリィの話がどうしても頭から離れず、改めて質問をぶつけた。
「ねえリリィ。さっき言ってた、リベラさんに無理やりハーレム入りを勧められそうになったって…具体的に何があったの?」
その問いに、リリィの顔が瞬時に真っ赤になった。
「それは…その…裸で佐々木さんのベッドに寝かされたり⋯とか」
「ええっ!?」
「ちょっと待って、そこまでされてたの!?」
詳しく聞いていなかったリーナも身を乗り出し、ミラと共に驚愕の声を上げた。
二人の反応に、リリィはさらに顔を赤くし、しどろもどろになりながら釈明を始めた。
「ち、違うの! 当時は、居住スペースも限られていたし、まともなベッドがあったのが佐々木さんの部屋だけだったの。 それに服は、その、洗濯中で着るものがなかっただけで」
懸命に説明を続けるリリィだったが、その状況のあまりの「極端さ」に、ミラとリーナは顔を見合わせて言葉を失っていた。
アヴァロンの主を巡る人間模様は、新参のミラが想像していたよりもずっと複雑で、刺激的なようだった。




