119.暴落と暴露
事務所を脱出した一行は、ひとまず佐々木の宿泊するホテルへと戻った。
再会を喜ぶガルドとミラを前に、リベラは今後起こる事を冷静に説明した。
「バルガスからの嫌がらせは、今後さらに激化します。この星に居続ける限り、あなた方に安息の日は来ないでしょう」
リベラは続けて、ガルドに選択を求めた。
「我々に同行して頂けるなら、身の安全を保証させて頂きます。他に連れて行きたい方がいるなら、その方たちも面倒みましょう」
ガルドは娘の震える肩を抱き寄せ、苦渋の末に頷いた。
「わかった。あんたたちについていこう」
リベラは小さく頷いた。
「では、今夜中に最低限必要な荷物と、同行する部下たちの意思確認を済ませてください」
今夜はメイリンがガルドたちの隠れ家である倉庫に同行することになった。
並んで座るタクシーの中で、メイリンは隣に座るミラに話しかけた。
「ねぇ、ミラちゃん。ぶっちゃけ、ウチの佐々木の事をどう思った?」
ミラは突然振られた話題に戸惑い、視線を泳がせた。
「助けていただいたのは感謝してますけど、正直…ちょっと頼りない感じがしました」
「あはは! 確かにね!」
メイリンは身をよじって笑い飛ばし、さらに畳みかけた。
「じゃあさ、もし佐々木から『付き合ってくれ』って言われたらどうする?」
「えっ。だって⋯おじさんですよね? 無理ですよ」
まったく乗り気ではないミラの反応に、メイリンは「まぁ、そうか」と自分がフラレたかのように気分を沈めた。
佐々木の良さは、ある程度年齢を重ねないとわからない。
メイリンは心の中でそう自分を納得させた。
⋯
その夜、ガルドの部下20名のうち、半数の10名が同行を希望した。
ガルドとミラにとっては、これまでの人生を精算する夜となった。
宇宙船に持ち込める荷物は限られている。
二人は夜を徹して、本当に必要な道具とわずかな思い出の品だけを選別し、荷造りを行った。
荷造りの間、メイリンの端末には何度もアラートが入った。
そのたびに舌打ちしながら外へ出て行き、戻って来るとメイリンの機嫌は目に見えて悪くなっていった。
⋯
翌朝。
倉庫へ集まってきたガルドの部下たちが、外で騒いでいた。
何事かとガルドが見に行くと、倉庫脇の支柱に10人近い男たちが縄でぐるぐる巻きにされていた。
「あー、それ、そのままにしといて。見せしめだから」
後から出てきたメイリンが眠そうな目をこすりながら言った。
夜中に嗅ぎ回っていたチンピラを返り討ちにし、縛り付けたのだという。
全員が揃ったところで、リベラが指定した大手造船メーカーのネクサス・システムズの支店へ向かった。
すでに到着していたリベラが、ガルドたちに告げた。
「皆さんは、佐々木様が購入したこの新造船で我々に付いてきていただきます。つきましては、船の最終チェックを皆さんでお願いします」
それを聞いていたネクサス・システムズの担当者の顔色が変わった。
「な、なぜそのようなことを? 点検は済んでおります」
「ただの確認です。許可頂けない場合、購入はキャンセルさせていただきますが、よろしいですか?」
オプションをふんだんに盛り込んだ新造船は、2億クレジットに達していた。この巨額の商談を棒に振るわけにいかず、担当者はしぶしぶ了承した。
ガルドと部下たちがチェックをはじめると、すぐに結果がわかった。
エンジン周りと気密系の異常が発覚し、このまま運行していればエンジンが停止し、酸欠で乗員は全滅していた可能性が高い。
担当者はこの事実を知り、青ざめ、震えてながら謝罪した。
この謝罪シーンは、その後なぜかネット上に流出し、夜のニュースでは重役が深く頭を下げる姿が惑星全土に放映される事になった。
調査の結果、これは特定のスタッフによる過失であったと発表され、同社は即座に当該スタッフを解雇し、今後再発防止に務めると報告した。
翌日、ネクサス・システムズの株価はストップ安を記録する事になった。
さらに週刊誌が、同社と『違法性が指摘される組織』の癒着についての記事をすっぱ抜いた。
解雇されたスタッフの独占告白が掲載され、有料版には動画も公開された。
その日の午後にはその動画はSNSへ流出し、動画の中で、男は震えながら語っていた。
「違法性が指摘される組織からの依頼を会社に伝達する中で、今回の顧客に対し、航行不能に陥るような工作を命じられました。こんな依頼は初めてじゃありません。数年前には、『ヘキサ・ヤード』という造船所を潰すため、部品の供給を止めるようサプライヤーに圧力をかけたこともあります。すべて、違法性が指摘される組織とネクサス・システムズが結託して仕組んだことです」
この告発により、ネクサス・システムズの重役たちは2日続けて夜のニュースで謝罪する事となった。




