116.ヘキサ・ヤードの残り火
翌朝、ホテルのレストランで朝食を済ませた所で、リベラが口を開いた。
「佐々木様。本日の宇宙船の契約や支払いの手続きは、こちらで済ませておきます。メイリンさんと、ヘキサ・ヤードで交渉をお願い致します。」
佐々木は、いつも行動を共にするリベラが別行動を取る事に少し違和感を覚えた。
しかし、リベラに言われたとおりメイリンとホテルを後にした。
メイリンが昨日確認していた住所を頼りに、2人は倉庫街へ向かった。
目的地である古びた倉庫の入口で佐々木は声を上げた。
「すみません。こちらにヘキサ・ヤードの社長さんはいらっしゃいますか?」
すると、倉庫の奥から一人の男が姿を現した。
「取り立てか? 今来ても何もありゃしないぞ」
男の言葉に、佐々木は努めて穏やかな声で返した。
「いえ。設計士のアテナさんに社長さんの事を聞き、こちらに伺いました」
アテナの名が出た瞬間、男の表情に驚きの色が混じった。
「アテナ。⋯あいつの知り合いか?」
男はしばらくの間、無言で佐々木を観察していたが、顎で中を指した。
「立ち話もなんだ。入りな」
「俺の名はガルド。ヘキサ・ヤードの元社長だ」
佐々木とメイリンは、ガルドに促されるまま、ここへ来た目的を説明した。
だが、ガルドは力なく首を振った。
「今の俺には何もできん。まず船を造るドックも精密加工の設備も、会社が潰れた時に全部大手三社に叩き売られた。裸一貫の俺に何ができる?」
「設備と場所なら、僕たちの要塞にあるドックを使ってください」
佐々木の返答にガルドは鼻で笑った。
「要塞のドッグだと? …仮に場所があったとしても、材料はどうする。この星の大手三社は俺たちをブラックリストに入れてるんだ。ネジ一本すら卸しちゃもらえないぞ」
「それも大丈夫です。僕たちの要塞にお越しいただければ、資源はいくらでも用意できます。既存の流通経路を気にする必要はありません」
「それにな。船一隻造るのにどれだけの人手が必要だと思ってる。かつてのスタッフは皆、大手に吸収されちまったんだぞ」
「作業員なら、高性能な作業ロボットを数千台単位で用意できます。ガルドさんの手足として自由に使ってください」
あまりに浮世離れした提案の連続に、ガルドはにわかに信じられないといった様子で眉をひそめた。
「設備に、材料に、人手まで用意するだと? 話がうますぎる。大体、あんたは何者なんだ?」
ガルドの剥き出しの警戒心に対し、佐々木は真っ直ぐに答えた。
「僕はただ、最高の船が欲しいだけの男です。僕が信頼するアテナさんが、それを実現できるのはあなたしかいないと言っていました。僕の言葉が信じられないなら、アテナさんをココに連れてきましょうか?彼女が保証するなら、信用してもらえますか?」
そう問うと、ガルドは毒気を抜かれたように少し考え込み答えた。
「そこまで言うなら、まぁ、話を聞くくらいは信用してもいいかもな」
「でもアンタ、そんな提案ができる立場じゃ、ないんじゃないのか? 」
それまで、横で黙って話を聞いていたメイリンが口を開いた。
「さっき私たちを見て、借金取りかと聞いただろ?借金で首が回らなくて、仕事どころじゃないんじゃないのか?」
図星を指され、ガルドは言葉に詰まって口ごもった。
「こんなのはどうだ? 借金を肩代わりする代わりに、私たちについてくるってのは?」
メイリンの提案にガルドは考えこんでしまった。
「ちなみに借金はどれくらいですか?」
と佐々木が尋ねた。
「…500万クレジットだ。利子が膨らんで、もうどうにもならんのだ」
ガルドが絞り出すように言うと、佐々木は「その程度なら」と、端末ですぐさま送金した。
「おい、 佐々木。今、交渉中だぞ、何やってんだよ!」
メイリンが佐々木の軽はずみな行動に怒りを表した。
ガルドは手元の端末に届いた入金通知を二度見し、信じられないものを見る目で佐々木を見つめた。
「コレは⋯本当にもらってもいいのか?」
ガルドは恐る恐る聞いた。
「しゃーないね。私のオトコは気前がいいからさ」
メイリンの返答に、佐々木は恥ずかしそうに頭を掻いた。




