112.新たなる目的
エリュシオンの問題がすべて解決した翌朝。
みんなで豪華な朝食が並ぶテーブルを囲んでいた時、メイリンがふと思い出したようにフォークを止めて言い出した。
「ねえ、ずっと気になってたんだけどさ。うちらってなんで『ルイン・キーパー』で移動してるわけ?」
「なんで、とは?」
リベラが首を傾げて聞き返した。
「だってさ、佐々木ってすごい金持ちじゃん。ルイン・キーパーって基本は『探査船』でしょ。 なんですごい金持ちが、無味乾燥とした探査船で宇宙を移動してるのかなーって思ってさ」
「なるほど。確かに言われるとそうかもしれませんね」
リベラは納得したように頷いた。
リベラのベースは元々ルインキーパーの船内AIであり、その思考回路は効率と機能性を最優先する。
人間の「居住性」や「快適性」については、意識的に計算に組み込まなければ抜け落ちてしまう部分があったのだ。
「確かに、佐々木様の資産規模からすれば、ルイン・キーパーの居住区はいささか簡素にすぎますね。では、たとえばどんな船がいいでしょうか?」
「いい船か⋯。いい船って言うと、私は以前リリィと乗った豪華客船がやっぱり良かったな! 中にホテルもカジノがあって、内装も豪華でさ。あっ、船内に波の出るプールがあって、サーフィンとかできたら最高に楽しそうかも」
メイリンが身を乗り出して言うと、隣で優雅に紅茶を飲んでいたクレアも微笑んで続けた。
「私も、ビーチやスパ、最新のマッサージ施設なんかがあれば満足かも。長旅の疲れを癒やす場所は大切ですもの」
「あとトレーニングスペースとか、お酒の種類が揃ってるバーなんかも欲しいかな!」
メイリンが次々と希望を追加していく。
「確かに、大型の豪華客船を購入すれば、それらの施設を組み込むことが可能ですね。佐々木様、いかがでしょう?」
リベラに話を振られ、佐々木は楽しげに頷いた。
「いいね。僕らは探査はしないし、思い切って豪華客船、買っちゃおうか」
「承知いたしました。でしたら、一度アヴァロンに戻り、みなさんやアテナさんに相談してはいかがでしょう」
「決まりだね!」
メイリンが嬉しそうに声を上げた。
⋯
佐々木たちが宇宙港へ向かうと、それを聞きつけたカジノの責任者が、息を切らせて見送りにやってきた。
「佐々木様! もう出発されるのですか。 この度は、本当に…その、色々とありがとうございました」
責任者は、命を救われた感謝と、1,000億という巨額の寄付への畏怖が混ざり合った複雑な表情で深く頭を下げた。
「今後ともよろしく。ラザルスさんにもよろしく伝えておいてください」
佐々木に代わり、リベラが穏やかに返した。
「それでは、今後とも良きパートナーとして。よろしくお願いいたします」
責任者の見送る中、ハッチが閉まる。
ルインキーパーは静かにドックを離れ、エリュシオンを擁する巨大コロニーを背に、星々の海へと滑り出した。
佐々木たちの旅は、より贅を尽くした新たなステージへと進もうとしていた。




